玩ばれる人形

□15.
1ページ/13ページ



――列車内









小さいままの牙狼を腕に抱きながらシオンは通路を進む。

彼女は誰よりも早くナツがいない事に気付き、列車に戻ったのだ。


「…黙って、乗っちゃったな…」

「出発する寸前だったからしょうがないだろ」

「んー…」


エルザとかに怒られるだろうな、と考えながらシオンはナツの臭いを頼りに列車の中を進んでいく。






††




















一方ナツは鉄の森の魔導士である、カゲヤマに喧嘩を売られていた。



「妖精の尻尾っていやぁ、随分目立ってるらしいじゃない?
正規ギルドだからってハバきかせてる奴ってムカツクんだよね。

うちら、妖精の尻尾の事を何て呼んでるか知ってる?妖精(ハエ)だよ、妖精(ハエ)…」


そう妖精の尻尾を馬鹿にされた挙げ句、「ハエたたきーっ!!」と頭を叩かれ、頭にきていたナツは勢いよく立ち上がる。


「てめ…」

「おー、やるのかい?」



「…あ、」


両手に炎を纏うが、乗り物酔いが治っていないナツは気持ち悪さのあまりに炎が消えてしまった。

その時、やっとシオン達がナツのいる車両に到着。


「ヒャハハ!!何だよ、その魔法」


魔法を失敗してしまったナツにカゲヤマは大笑い。


「魔法ってのは…、」


するとカゲヤマの足元の影が伸びていく。


「こう使わなきゃ!!」

「うごっ!」


そして、影は拳の形へと変わり、ナツを殴りつけた。
どさっと倒れるナツに更に大笑いするカゲヤマにシオンの目が鋭さを宿す。


「……」


シオンは牙狼を床に落とすと片手を前にかざした。
瞬間、その手の平を中心に黒い“闇”が鋭い刃へ形作る。


「貫け」


その声と同時に闇の刃をカゲヤマに向けて、放つ。


「なっ…!!」


だが、すれすれで避けられ、刃は彼の後ろにあった椅子に刺さり、傷だけを残して消えた。


「な、んだテメェ!!」


カゲヤマが反撃しようと構えるが、列車はキイィィンと言う高い音を鳴らしながら急停止した。
シオンは瞬時に元の大きさに戻った牙狼によって支えられた事でバランスを崩す事はなかった。


「大丈夫か?」

「ん」

「止まった………ん?」


その時、カゲヤマの鞄から出た物が2人の視界に入る。


「み…見たな!!」

「うるせェ…」


すると列車が止まった為、乗り物酔いが治ったナツが立ち上がる。


「…さっきはよくもやってくれたな」

「え!?」


先程の怒りが込もった炎を、ナツは右手に纏い、カゲヤマへ殴りかかった。


「お返しだ!!!」


ナツの拳をくらったカゲヤマは勢い良くふっとび、車両の向こうまで転がる。


「ハエパンチ!!」

「て…てめえ〜…」


「やっと起きたの…?」


小さく息を吐きながらぶんぶんと拳を振るナツにシオンは声を掛けた。


「お、シオン。迎えに来てくれたのか!」

「皆、ナツに気付いてなかったから…」

「ありがとな!」


ニカッと笑うナツだが、その時自分達がいる車両に放送が入った。


《先程の急停止は誤報によるものと確認できました。

間もなく発射します。大変、御迷惑をおかけしました》


「マズ…」


列車が発車する事はナツにとって、拙い事。
ナツは慌てて荷物を背負う。


「逃がすかぁっ!!!」


ジリリリッという発車の合図が響き渡る中、カゲヤマは立ち上がった。


「鉄の森に手ェ出したんだ!!!駄々で済むと思うなよっ!!ハエがぁ!!!」

「こっちもてめェの顔覚えたぞっ!!!さんざん妖精の尻尾を馬鹿にしやがって」

「ん、妖精の尻尾の敵なら容赦しない」

「今度は外で勝負してぼる…うぷ」

「最後まで我慢できないのか、カッコつかないぞ」


ナツはシオンを抱き上げると、窓を突き破って列車から出た。それに牙狼も後に続く。

列車から飛び降りた所為で、列車からの風圧がナツ達を吹き飛ばす。
すると、列車の後ろから勢い良く走る車を発見した。







 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ