玩ばれる人形

□06.
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《エルザ》










「体の調子はどうだ?」

「……、」


エルザの言葉に無言を返すシオン。
何処かエルザを警戒しているようで、戸惑っているようにも見える。
無言な彼女にエルザは不快に思う事はなく、ただ苦笑するだけだった。


「そう警戒しないでくれ。
私はただ、お前と話がしたいだけなんだ」

「…?」


ぎこちなく、微かに首を傾げるシオン。
その小さな彼女の反応に思わず嬉しく思い、小さく微笑みながらエルザは口を開く。


「…と言っても、手持ご無沙汰だと思い、これを持って来た」


どーん!と効果音がつくようにエルザが出したのは白い皿に乗せられたケーキが2皿。
ご丁寧にフォークがケーキと共に乗せられている。


「……」

「いつも1人で食事しているのだろう?
だったら、今一緒に食べてみようではないか!」

「…?」

「一緒に食べた方が楽しいだろうし、倍おいしく感じられるだろう?」

「!」




―シオン、1人で食べるより一緒に食べよう。
そちらの方が、数倍おいしく感じられるからな。






「……」


エルザの言葉が今此処にいないラオと重なり、思わず俯く。
そんな彼女にエルザはぎょっとし、ケーキを持ちながらオロオロしてしまった。


「ど、どうした?私が何かいけない事を言ってしまったのか?
だったら、私を殴ってくれ!」

(いや、何でだよ)


只今シオンの隣…エルザの反対側にいる牙狼はエルザの言葉に思わず心の中で突っ込んでしまった。
オロオロするエルザにシオンは首を横にフルフルと振った。


「だい、じょうぶ…です…」

「そ、そうか…
(! 初めて会話が出来た…!)」


エルザは心の中でこっそりグッと拳を握りつつ、安堵の息を零した。
そして、再び皿の片方をシオンへ差し出した。


「ほら」

「……」


戸惑うようにエルザとケーキを交互に見ていると、更にエルザは皿を突き出す。
思わず牙狼をチラリと見れば、我関せず(=お前が判断しろ)状態だ。
そんな相棒にちょっとだけショックを受けながらも、数秒考えた後、おずおずと皿を受け取った。


「!」


その行動にエルザはぱあぁ…と表情を明るくさせる。


「……あの…」

「ん?何だ?」

「…これ、お金、とか…」

「?……あぁ、そんなのお前が気にする事じゃない」

「…、…でも」

「気にする事じゃないと言っているだろう」

「……」


シオンは視線をエルザから外しつつも、何か言いたそうに口を小さく開いたり、閉じたりした後、意を決したように言った。


「あ、り…がとう、ございます…」

「…あぁ!」


その後、エルザが一方的にだが(主に鎧や剣、ギルドの事やらの)話をし、ケーキをつまみ、

満足したのか、帰る時間が来たのか、エルザはシオンに微笑みながら最後に手を振って、出て行った。


















「…分から、ない」


それは何に対してなのか、分からないがそう呟く。

そして、半分位残ったケーキを床に座っている牙狼の前に置いた。
(だが、断じて嫌な意味ではない。
ただ、お腹が一杯で食べれなかっただけだ)







 
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