いただきもの

□てくにか。兎亀様から頂きました
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優しく耳に馴染む声。
光の加減で紫に見えるその深い色の目。
整った端正な面顔。
漆黒の髪を風に遊ばれ、月の光に白く浮かび上がる肌。憂いを滲ませる笑みが、緩やかに言葉を紡ぎ出す。
きらりと光る耳飾りがちくりとトリコの目を刺激する。
思わず、言われるままに構えた剣を下ろすトリコはしかし、真っ直ぐに男を見つめ、万一のためにもその腕を強く掴んだ。

「誰だお前...」
「ボクはココ。たまたま近くを通りかかったら、君と君の馬を見つけた」
「悪いな。俺はこの国の人間じゃねえ。見られたからにはこのまま帰すわけにいかねえんだ」
「大丈夫。ボクもこの国の人間じゃない。帰る途中だったんだ。遠い場所にね」

ココはトリコより僅かに背丈は劣るが、細身の引き締まった体に、端の少々ほつれた白い羽織り布を身に付けていて、その下に見える黒に統一された衣服以外にこれといった装備品のようなものを持っていなかった。
トリコは訝しみながらも、微笑みを浮かべたままのココに詫びた。
するとココは、「いや、無遠慮に近付いたボクにも非がある」と返す。

「君の名前を、聞いてもいいかい?」
「......。トリコだ」
「そうか。トリコ、君はもしかしてこのまま山を下って国境を越えるつもりなのか?」
「?ああ、そうだ」

ココはトリコに名を訊ね、そしてふいに丘の向こうに広がる平原に目を向けながら告げる。

「国境には残党狩りが待ち伏せしてる。少なくとも500人はいる。恐らく君を狙ってのことだろう」
「なに?なんでお前がそんなこと知ってんだ」
「旅の途中で見たんだよ。トリコ、ボクは安全に国境を越えられる道を知ってるんだ。ボクには身を守る術はない。だから君が一緒に来てくれるなら、その道を教えるよ」

ココの唐突な言葉にトリコは目を見開く。
これから国境を越えようとしているトリコには、500人の残党狩りとは、由々しきことだ。
だが例えココの言うことが真実だったとして、それを信じられる理由があるというのか?
今しがた初めて会ったこの男を信用できるわけがない。
むしろ罠にかけられている可能性もある。
しかもこの男にはおかしい点がいくつもある。
信じるべきか、真に受けぬべきか。
迷うトリコに、ココは緩やかに笑い、こう言った。

「信じられないと思う、当然だ。でもボクは君を裏切ったりはしない。誓ってもいい。後は君次第だよ」
「.....本当なんだな?」
「ああ、そうだ。 僕も国境を越えたいんだ。でも残党狩りに襲われたら、馬も荷物もないボクには奪われるものはもう命しかない」
「俺に守ってくれってのか?...ココって言ったな。お前も大概だぜ」
「君さえ良ければ、もう出発しよう。夜が明ける前には、山を降りられるように」

そう言ったココは、まるでトリコを導くように歩き出した。
その姿を呆気にとられながら見ていたトリコは、近寄って来ていたテリーの鼻面を撫でてやりながら、目を細めて、この不可思議な男の後ろ姿を見つめて呟いた。

「変なやつだぜ」

そんなことを漏らしながらも、テリーに鞍を背負わすとそこに跨がり、トリコはココを追うために月夜が未だに眩しく照らす谷を下へと下り始めていた


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