一人娘と兄弟の物語

□ 三章
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この扉を一枚隔てた向こう側には、今日会った彼女が居るはずです。


片方の取っ手に兄弟の手が重ね置かれ、ゆっくりと頷き会います。

「…いくよ。」







すると突然ガラスの無い窓から強い夜風が通路に吹き渡りました。

床に置かれる蝋の灯りが一瞬にして消されます。

その瞬間







蝋の消えたのを合図とした様に、開け放とうとしていた扉に勢い良く何かが打つかって砕け散りました。

大きな音と共に、兄弟の上に破片が降りかかります。


兄は素早く後ろを振り返り、身構えました。
弟を背中で庇う様に…


通路のずっと奥、其処には髪を長く垂れ流した女の人が立っていました。


何かを呟いているようですが、遠すぎて良く聞こえません。

しかし危なげな歩き方でも、確実に此方へ近づいて来ていました。



兄は彼女の何かに気がついたのか、ぐっと体制を低くして、弟を扉に押し付ける様に後ずさります。

弟からは、兄の背中に遮られ女の人すら良く見えません。


「良いか… あの人に気付かれないように、ゆっくりとその扉の中へ入るんだ。」

囁くように、それでもしっかりとした声で兄が弟に語りかけます。


彼が始めて低く、恐ろしい声音で話した瞬間でもありました…

まるで別人のようにも思えて、弟は徐に戸惑います。


何故だか逆らえなかったのです。


体制をずらし、彼の顔を伺います。

そこには何時も笑顔の兄が、まるで感情の無い人形のように冷え切った顔をしていました。

弟は泣きそうになりながらも、女よりも兄の方を恐ろしく思う感情を必死で押さえ込み
それに気付かれないように反抗しました。


「まってよお兄ちゃん!
お兄ちゃんも一緒に入るんでしょ!!?」

もう既に涙声になっていました。
自分でも、どうする事も出来ません。
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