一人娘と兄弟の物語

□ 二章
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弟は青ざめ、腰を抜かしたようにその場にへたり込んで行きました。

兄は冷静にピアノの落ちた先を目で追っていきます。



子供用の小さなピアノは、3階の右から5枚目の窓から投げ込まれた様です。




決定的な証拠に…

其処には冷めた目で此方を見つめている女の子がいました。


まるで人形のような白い肌に、所々破けた薄いばら色のドレス。

赤黒く汚れた髪はぼさぼさに乱れ、顔の殆どを隠していました。



今もなを此方を見下ろす冷めた目の彼女に、兄は微笑み、聞き取れる様に声を張り上げ呼びかけました。

「どうも、始めまして。
僕はこの子のお兄ちゃんなんだ。 また近々、君に逢いに行くよ。」


兄はにこやかに話し、軽く会釈をしました。

その後、じっと彼女を凝視する弟を立たせて、服につく枯葉を払い、手を取ってその場から帰ろうとしました。

弟はまだ振るえ、肩越しに彼女を怯える目で見続けています。




すると、右の草むらに何かが落ちたような音が聞こえました。

兄は咄嗟に後ろを振り返ります。


しかし先程まで彼女の居た窓辺は、ただの黒い窪みと化していました。

「お、お兄ちゃん。」

弟が震える声を発します。

兄は宥める様に弟の頭に手を乗せ撫でてあげました。


少し落ち着いたのか、弟が口を開きます。

その声は未だ少し震えている様にも聞こえました。

「さっきの女の子が何かを投げたよ」








兄は音のした草むらを掻き分け、その何かを探しました。

少しして…

「あったよ! きっと此れだよお兄ちゃん」

弟は枯れ草に埋もれながらも、手を突き出し合図しました。








「一体何処をほっつき歩いていたの! 
こんな時間まで外に居て…

今夜は自分たちの部屋で反省をしていなさい!! 晩御飯はそれからです。」

兄弟の母は、錯乱したように喚きました。


兄は反省したように顔を俯け、小さく謝罪をした後、黙って自室へと向かいました。

弟はそんな兄を見ていると悲しく思います。




兄弟の部屋は狭く、ベットは一つだけです。


実を言えばあのお城が滅んでからと言うもの、金銭的に出回りが悪くなり
人々は食事にも困る羽目となっていました。



あの噂が流れたのは、そんな事情が有ったからなのかもしれません。


彼らは結局門限には間に合わず、空に星が煌く頃に家に着いたのでした。


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