拍手編


□+舞踏
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〜特別短編集〜

【舞踊】



屋上に居た。

私以外、誰も居ないだだっ広い空間…


飲まれそうな程の闇には、うっとりとする月が優雅に浮かんでいた。





私は純白のドレスに身を包み、一人静かに踊っている。


コツんコツんと、小気味良い靴音が響く中…



「…君は完璧だ。」


突然、聴いた事の無い声がかけられた。

低く、しわがれた、まるで老父の様な声…



オルゴールの人形の様に、踊る事を止めなかった少女は、初めて脚を止める。



「だあれ?」


透き通りそうな程の可愛らしい声は、無垢な瞳と共に其方の方へ向けられる。



しかし其処には何も無く、ただ広大な闇が広がるだけであった…


「…君は素晴らしい。」

すると先程と同じ様に、少女を賞賛する声が後ろから発せられる。

少女は華麗に振り返った。


…しかし、其処には何もない。




「どなた?」

少女は不安げに、手を胸の前に組む。



「…君は天使だ。」

しかし声の主は、一向に少女の質問に答える気が無い…。









少女は駆け出した。


正体の分からぬ不安に勝てず、その場から逃げだそうとした。


真っ暗で、月明かりしかない屋上で
少女は懸命に走り続ける…

辺りには忙しない自らの靴音が耳に響くだけであった。




「…君は可愛らしい。」

声は変わらず聞こえて来る。

少女は背後を見ながら、駆ける速度を速めた。



すると…‥













「…君は私の物だ。」

月は暮れ、白々とした朝日が登り始める中。

声の主は屋上から眼下を眺める。


其処には屋上の端から落ち、潰れた少女が居た…

様々な所から真っ赤な血を流し、半壊している少女。





その目は苦しげに見開かれ、口は悲鳴を上げてそのままの形で固まっていた。




「…君は私の物だ。」

もう一度繰り返す声の主は、怪しげに笑んだ後

ふっと、居なくなってしまった…。




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