cry of soul 1

□32
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知りたかったことがある

聞きたかったことがある


ソレはAKUMAな私にはわからないことで

ソレは人間がもつモノ


「感情」と呼ばれるモノ


愚かで弱い人間が育むソレに

憧れと嫉妬を覚えて苛立つ


この鋼の身体には流れぬもの

この仮初めのオイルでは溶かしきれぬもの

とても、羨ましかったモノ





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第32話 は誰?
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大きく開いた口から覗く牙が、イツキの身体を貫く


「うあっ…!!」


ギチギチと肉のしなる音をたてながら、深く牙は刺さってゆく


白狼を押しのけようとイツキが残った片腕で突っ張るも、どかせることができるわけもなくイツキはただ押し倒されていた


ボタリ、ボタリ


白狼の牙の隙間から、イツキの血が滴りおちる


グラグラと視界が揺れ始める


先ほどの衝撃と、血を失い始めたせいだ

また、覚えのない映像が私を呼ぶ





『--------、』


霞む視界に映ったのは、大きな黒豹と白狼


数多の生き物が息づくなかで、色を纏わぬ2匹のなんと気高く美しかったことか


『共に、歩もう』


手を伸ばした先はどこだったか


それが思い出せずに酷くもどかしい


グルグルと視野がめまぐるしく変わる


(また、か)


このところこんな不安定な感覚ばかりだ


思い出せないことが悲しいのか


思い出したくないと望んでいるのか


考えることに苦痛を感じて、イツキは意識を手放した









押しのけようと伸ばされていた片腕が、パタリと落ちる


身体の力が抜けた彼女に、白狼も口の力を緩めた


(死んで、しまったか)


口のなかに広がる甘い血


飲み干したいと思う感情と、何てことをしてしまったのだという罪悪感で吐きたくなる


矛盾した感情に自分でも呆れてしまう


牙を引き抜き、ドクドクと流れ出る血液に口を寄せる


流れる血をなんとか止めようと何度か舐めてみたが血は止まらない


流れ出るソレは私の罪のようだ


(どうなれば、私は満足したのか)


彼女の首元に顔を埋め、ぎゅっと目を瞑る


まだ残っている体温と、彼女特有の気配に涙がこぼれそうになる


『何を、嘆く』

「……!!」


突然聞こえた声に驚き、距離をとろうとすれば、逃がすまいと首に両腕が回される


『お前はいつもそうだった 不器用なくせに、とても優しい』

「-----------っ、」


纏う気配が酷く懐かしい


先ほどまでの彼女ではなく、追っていたあの人のソレと悟った


かつてこの世界に在った名を呼ぶ


かつて届かなかった存在の名を呼ぶ


その名を呼べば、回された腕がぎゅっと応えた


『私が、憎いか』


その問いに身体に緊張がはしる


それを感じたのか、--------、はそっと笑った


『許さなくていい 私はお前達の言葉に耳を貸さなかった』

「……………」

『もう、お前も私達に囚われなくていいのだよ』



その言葉を最後に、また腕がパタリと落ちる


慌てて彼女の顔を覗きみれば、再び意識をとばしたらしい


静かだが息をしているのを確認して、思わず安堵の息を吐く


「また、拒むのか」


じっと彼女を見下ろして、白狼はポツリと呟く


「私が望んだのだ 貴女達に囚われることを、貴女達の腕となり、足となることを」


ポタポタと滴が彼女の頬に落ちる


赤いソレではなく、私の目から馬鹿みたいに溢れ出る


届かぬ想いはいつの世も同じなのか


「これだけ私の生き方を狂わせておいて、要らないと捨てるのか」


張り詰めた空気に泣き叫びたくなる


この湧き出てくる感情を、吐き出したくて仕方がない


脳裏によぎったのはもう1人の存在


自分の主であり、自分を誰よりも大切にしてくれた存在


「-----------っ、」


未だ会えぬ彼に会いたいという気持ちが溢れてくる


昏々と眠る彼女の顔をもう一度だけ覗けば、あの「最期」の日が蘇る


いつから私達は狂ってしまったのか


いつになったら私達は救われるのか


そんな答えのでない問いを抱きながら、白狼はクロウリー城から姿を消した


この世界のどこにいるかもわからない、自分の主を探すために











情報をある程度集めれば、真実に結びつくのは意外とたやすい


埋められていた村人


発掘されたのはAKUMA


そのAKUMAの血を啜った男爵


ウィルスをもつはずの血を啜り超人のような力を発揮するということは、


「そのかってぇ歯がイノセンスなんじゃねぇの?」


アレンが離脱したため、クロウリーと交戦していたラビの声に男爵の動きが止まる


そうとしか考えられない、ラビは確信をもっていた


「アンタはアレンやイツキ達と同じ、AKUMAの毒が効かない寄生型の適合者で無意識にAKUMAを狙ってたんさ」

「……………」


思い当たる節があるのか小馬鹿に話を聞いていた男爵の顔も引き締まり、じっとラビを見据えていた


「AKUMA狩んのが楽しいってんなら、オレらの仲間になったらもっと狩れるぜ?」


大歓迎、と笑ってラビも顔を引き締める


「アンタ強いんで先話しとく 手加減してやれねぇみたいだから」


槌を掲げたラビを中心に不思議な紋が広がる


「目ェ覚めたら返事頂戴さ クロちゃん♪」












目を開けば、ただ大きな月が私を見下ろしていた


ドクドクと右肩から流れる血が止まらない


ふらりと立ち上がれば立ちくらみが簡単に起きる


(……重傷、だ)


渇いた笑いが口から零れるも、いつまでも倒れているわけにはおれず重たい身体を持ち上げる


アレンの姿が見えない


周囲を見渡してみれば、煙のあがっている場所がある


どうやら城内まで男爵に吹き飛ばされたようだ


先ほど白狼に押し倒された時に巻き添えをくって意識を飛ばしたキルを懐へ抱え込んで、イツキは城へと向かった









城のなかに突然放り込まれ、アレンは道に迷っていた


この広い城のなかには道標になるようなものもなく、適当にうろつけば深部に向かうばかりだ


(どこにいけば、)


そんな時だった


蔵書室のような部屋から声が漏れていたのを聞きつけて扉を開く


女性の声が聞こえたのに、仄かな灯りに映るのは異形なモノ


(あれは、)


目を凝らそうとすれば、突然背後の扉が大きな音を立てて閉じた


「え?あれ?」

「あら、白い坊やじゃない アレイスターったら仕留めろっていったのに」


襲ってきたのは背後からの酷い圧力と女の声


なんとか振り返ってみれば、クロウリーと共にいた女性だ


「まったく、もう」


優位な体勢にいるはずの女性の息が荒い


右肩に残る歯形にはアレンも見覚えがある


(あれ、は)


そう、自分の手にも残る伯爵の歯形であった









「あらやだ、無反応?抵抗ナシ?」


急激な疲労とダメージから意識が落ちそうだ


殴られ続けてこのエリア−デという女性の力も半端ないことも理解している


頭を動かし続けなければならない


理由のひとつでも述べて納得してもらって、誤解を解かねば殺されかねない


「アレイ、スター・クロウリーを…退治する…気は、ありま…せん」

「お、しゃべった」

「あなたと…戦う…理由が、ない」

「この状況でそんなこと言えるわけ?」


攻撃を加える手が止んだ


アレンの言葉に耳を傾けていたエリア−デだが、次の言葉で目の色が変わる


「彼…は、吸血鬼でも化け物でも、ない 僕たちの…仲間かも…しれないんです」

「アハっ!」


攻撃に勢いが増す


何かが彼女の"逆鱗"に触れた


「アハハハハっ!!」


殺意が満ち満ちてくる


胸元を押さえつける腕の力に、骨が軋む


「仲間?バカじゃないの?あいつは吸血鬼よ!!」


霞む視界にとらえたのは殺意に満ちた目と、


「連れてなんて行かせるもんか…っ!」


どこか縋るような、思い詰めた女の表情であった


その言葉はどこか祈るような、


散々少年を殴りつけたあとエリアーデがアレンを壁に叩き付け


ガラガラと壁の残骸が落ちる音と共に、アレンも床へと伏す


「首落として全身から血を抜いて城門に飾っといてあげるわ もう誰もこの城に近づけないように」


静かな廊下にカツン、カツンと静かに足音が響く


強くなる血の香り


「だから邪魔をしないで」

「それは、無理な相談だわ」


アレイスターの足音なんかではないことはわかっていた


血の香りで違うこともわかっていた


それはエリア−デにとっては近くて遠い存在


理解をしたいような、怖いような存在


「その子を、返してもらうよ」

(ニンゲンの女)


銀色の髪を揺らした、血塗れの女が自分を見つめていた













"綺麗な娘"


ここまで整った容姿の人間も珍しいと純粋にエリアーデは思った


自分の容姿にも自信があるが、それとはまた異なった魅力が自分でもわかる


太陽の光を固めたような金色の眼に、月の光を閉じ込めたような銀色の髪


そして漆黒の衣類に胸元のローズクロス


「…貴女も、エクソシストなのね」

「貴女は、AKUMAなんだね」


その一言にドキリと心臓が跳ねる


「…なぜ?」

「声が、聴こえるの "魂"の方の、ね」

「…そう」


動揺を悟られるなんてまっぴらゴメン、簡潔に返事を返す


こういう希有な能力をもつ人間の存在は、身分を偽る自分にとっては疎ましいものだ


「でも随分小さな声」

(随分、自我の強い魂)


嫌悪感をむき出すわけでも、軽蔑するような視線をよこすわけでもない


ただ自分をじっと見つめる彼女に興味がわく


「ねぇ」


知りたい、


私がなれない存在


私とは何かが違う存在


「貴女の名前は?ニンゲンさん」


AKUMAにとって、人の名などは興味の対象外だ


しかし、自分はまずこの存在の理解をしたい


「…イツキ」

「私はエリア−デ」


それに応じた彼女にエリア−デはどこか満足をしていた


だからか、


「ねえ、知りたいことがあるの」


積年の疑問を、エリア−デは初めて言葉にしたのだった



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