cry of soul 1

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「それじゃあ任務について話すよ」


雨が強く窓を叩く中、馬車は走る


一旦治療を終えたエクソシスト達が次の任務へと赴くのだ


「いいかい?2人とも」

「「は…い…」」


病院に戻る際、ラビの槌に乗って帰ってきたアレンとラビ


ただ、勢いがつき過ぎたせいでブックマンに突っ込んでしまい、只今正座での反省中だ




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第29話 ッセージ
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「先日元帥のひとりが殺された」


それは深刻な表情のコムイの説明から始まった


「殺されたのはケビン=イエーガー元帥 5人の元帥の中で、最も高齢ながら常に第1戦で戦っておられた人だった」

「あのイエーガー元帥が…!?」


リナリーがはっと息を呑む


イツキも名前だけは耳にしたことがある


穏やかで人徳のある元帥だとか


「ベルギーで発見された彼は教会の十字架に裏側に吊るされ、背中に"神狩り"と彫られていた」

「…神狩り!?」

「イノセンスのことだな?コムイ」

「そうだよ」


理解の早かったラビに相槌を打ち、コムイはその時の状況を説明した


発見した団員の話ではその彫り傷は


深く 深く


まるで積年の恨みをはらすかのように彫られていたという


「元帥は適合者探しも含めてそれぞれ複数のイノセンスを持っている イエーガー元帥は8個所持していた」


はあ、と溜め息をつきコムイは言葉を続ける


気苦労が多いのか、コムイの眉間には皺が寄りがちだ


「奪われたイノセンスは元帥の対AKUMA武器を含めて9個」

「9…っ」


奪われた神の武器の多さに一同に危機感が増す


これでAKUMAへと立ち向かう9つの力が消えてしまったのだ


「瀕死の重傷を負い、十字架に吊るされてもかろうじて生きていた元帥は息を引き取るまでずっと歌を歌っていた」



せんねんこうはさがしてるぅ♪


だいじなハートさがしてるぅ♪


わたしはハズレ


ツギハダレェ…♪




「「センネンコウ?」」

「千年伯爵の愛称みたい」


ラビとイツキの疑問にコムイが答える


「アレンくんとリナリーが遭遇したノアがそう呼んでいたらしいよ ―イツキくんは覚えてないかもしれないけど」

「ノア、」


記憶を少し遡らせる


あの少女がそうだったのだろうか


自分を気に入ったといい、共に来いと誘いかけてきた、あの小さな少女が


イツキの思案も余所に会話は続く


「あの、大事なハートって…?」


アレンが口にした言葉に皆の視線も集まる


"ハート"


それは109個のイノセンスの"心臓"ともいえる核のイノセンスのことである


それは全てのイノセンスの力の根源であり、全てのイノセンスを無に帰す存在


それを手に入れて初めて、教団側は終焉を止める力を手にいれることが出来る


コムイの話によると、それは形も特徴もキューブには明記されていなかったらしい


つまり


教団側自身、もう手にいれてるかどうかもわからないということだ


「…それからもう1つ、メッセージが残っていた」


もう終わりかと思われた話には続きが存在する






世界の広さを知った時

そこには何があったのか


世界の姿を知った時

そこには何が残るのか



深淵の闇が彼の人を呑みこむ

眩い光が彼の人を導く

その先に異端の神が待ち構えているのも知らずに



"追憶の住人を、誰が殺すのか"






元帥のすぐ近くにこの文脈が書き残されていたという


残されたメッセージにラビ達が眉を潜める


「…どういう意味さ?」

「わからない これが警告なのか、こちらを挑発しているものなのかも」

「追憶の住人…」

「ちょっと心当たりのない言葉なんだよね」

(…あれ、どこかで)


聞いた覚えのあるような、ないような


アレンがその言葉に眉を潜めるも、コムイ達の話は止まらない


「異端の神…これは教団側への揶揄の言葉だと思う」

「そうなると教団へのメッセージというよりは、個人へのメッセージに?」

「僕はそう思ってる」


ラビの言葉に同意を示すコムイ


しかし確信をもつものではないし、ただの憶測を延々と述べるのもあまり意味のないことだ


「一応耳にいれておいた方がいいと思ってね 個人へのものだったら各自注意が必要かと思って」


それと、とコムイは先程の話へと戻した


「最初の犠牲者は元帥だった」


目を背けたくなる程の有り様だった


それがいつ、身近な彼らに及ぶのか


「もしかしたら伯爵はイノセンス適合者の中で特に力ある者に"ハート"の可能性を見たのかもしれない AKUMAに次ぎノアの一族が出現したのも、おそらくそのための戦力増強」


元帥さえも滅ぼす力


世界を揺るがす力


「エクソシスト元帥が奴らの標的となった 始めの伝言はそういう意味だろう」


確かに「ハート」がそれほど凄いものなら所持者は元帥くらい強いかもしれない


効率よく相手の力を削る意味でも、伯爵側の戦略は納得のいくものだ


「ただAKUMAとノアの両方に攻められてはさすがに元帥だけでは不利だ」


これが本題である


「各地の仲間を集結し4つに分ける 今回の任務は元帥の護衛だ」


「君達はクロス元帥のもとへ!」 















「ただいま〜」

「こら シオン 手洗いとうがいしてこい」


上着をAKUMAのメイドに預け、雪を撒き散らして室内を走るシオンにティキは声をかけた


「あれ?千年公いねぇ…」

「おかえりぃ〜 ティッキー、シオーン」

「げ…」


ただいま、とシオンが駆け寄っていく声の主を見つけ、ティキは顔を引き攣らせた


ロード自体は何の問題もない、問題があるのは彼女が珍しく机に向かっていることだ


「何してるの?」

「知りたい〜?」


高いテーブルに背伸びし、ロードが何をしているのか興味を示したシオンにティキはぎょっとした


「シオン、近寄るなよ」

「手伝ってくれるのー?」


慌ててシオンを呼び戻そうとしたが、ロードに抱きつかれており既に奪還は不可


つまり自分ももう捕まったも同然だ


「宿題?いいよ?」

「さっすがぁ!ありがとぉ〜シオン!」


常日頃読書をしており、学ぶことが好きなシオンは快くOKをだした


これはイツキの教育の賜物か


「ティッキーも手伝ってくれるよねぇ?」


がくりとうな垂れるティキにもロードは声をかける


いやいや、俺まで手伝う義理はない


「は?いや俺は…」

「手伝ってくれたらいいもんあげるよー?」

「いらねぇよ」


日頃の言動から信用性の皆無なロードにティキが全面的に拒否をする


しかし簡単に獲物を逃がすほどロードは甘くない


「ほんとにぃ?」

「お、おう」

「じゃあ、シオンには前払いしてあげる〜」


ロードは笑ってポケットから一通の封筒を取り出す


ご丁寧にラブレター装丁だ


「?開けていいの?」

「これ終わってからねー」

「わかった 頑張る」

「ティッキーにもあるのにー」


ヒラヒラと振るその封筒が妙に気になる


悪戯めいた視線のロードは何か確信を持っているようだからだ


「ほらティッキ、座って早く」

「…もうエントリー済みなわけね」

「当たり前じゃーん」


逃げられないのはわかっているためティキも嫌々ながら席についた


大量の本が積まれているのを間近で見れば、溜め息のひとつもつきたくなる


(…適当に片すか…)

「いっとくけど、手を抜いたら報酬はなしだからね」


にこりと此方を見て笑ったロードにティキは姿勢をピンと張り直した















「お…終わった」


よくこれだけ溜め込んだなぁおい、とロードの宿題を終えティキはテーブルに突っ伏した


肩は凝ったは、普段使わない頭を使ったは


疲れだけが残り何となく、いやしっかり損した気分だ


「ティッキ〜♪」


そんな気分はこの後払拭される


ロードの予測通り、この作業はかなりお得なものだったのだ





「あげるー」


先程シオンに渡したのとそっくりな封筒が、へばっているティキの前に差し出された


「?何だぁ?」

「ティッキーが絶対喜ぶもの」


テーブルの上を片付けているシオンをティキの横に呼び、彼にも先程の封筒の開封の許可を出した


「僕、手紙貰うのって初めて」

「用があんなら口で言えよ…」


ガサガサと2人が開封するのを正面から頬杖をついて見つめるロード


カサカサ

ガサ…


「「…………」」


音が消え、2人の表情が固まる


出てきたソレに視線は縛られ、部屋の中の時間が止まった


ロードだけが2人の反応を楽しそうに見ている


「イツキ…」

「ねえさま…?」


反応は同時


呟いた名は呼び名こそ違えど同じ人物を指し、2人の手中には1人の女性が写された写真があった


「おまっ…これ…」

「こないだ見っけた」


動揺しまくるティキ達の質問攻めに遭うのを避けるため、ロードは先に切り出した


サプライズは好きだけど、怒られるのは好きじゃない


「イノセンス探しにドイツに行ったんだけどね、そこで見つけた」


ポケットに入ってたキャンディーの包みを解くことで、真剣な面持ちで自分を見る2人から1歩距離をとる


「ホントはさ、お持ち帰りしてやるつもりだったんだよぉ?」


写真の中のイツキは自分の記憶に強く残る姿のままだった


月光を閉じ込めたような銀髪と、太陽の光を固めたような金色の瞳


胸の奥がドクリとなる


会いたい、触れたいという衝動が強く蘇る


「綺麗な子、僕も気に入っちゃった」

「だったら、」

「そう睨まないでよぉ」


何で連れ帰ってくれないのだと睨むティキに、ロードも小さく溜め息をつく


ポイ、と口の中に放り込んだキャンディーが、レモン味だったのか酸っぱさに顔を顰めるロード


「だって、手順も何もすっとばしてイツキを連れてきて、本当に大丈夫だったの?」

「どういう、」

「エクソシストになってたよ、その子」


じっ、と見つめてくるロードにティキが気まずそうに視線をそらした


「あれ?知ってたの?」

「噂を聞いただけで、確認まではとれてなかった」

「そう」


シオンも眉を顰めているのを見ると、2人とも知っていたようだ


ロードが可哀相にとシオンの髪をゆるく撫でる


「"ノア"の存在は知らなかったみたい 千年公側だってのは言っておいた」

「…それで?」

「冷静な子、いきなり手をあげるような野蛮さはなかったよ」

「当たり前だ」


ティキがジロリと睨んでくる


うん、ごめん そんなことはわかっていた話だったね


「エクソシストはAKUMAを滅する存在、千年公を薙ぎ払う存在」

「…………」

「今、いきなり僕が連れ攫っても、きっとその刷り込みが抜けないよ」


見知らぬ自分が何かをわめくよりは、彼女にとって親しいものからの言葉の方が重みがある


そしてその重みは寝返るきっかけにもなり得るだろう


「ねえ、イツキをこっちに連れてきてよ」


ロードの言葉にティキが苦々しそうに見つめ返す


「千年公には僕から言っておくし、文句言う家族もいないと思うよ」

「どこにそんな保証」

「だって、シオンの家族でしょ?」


シオンを受け入れた一族が、その姉を拒む理由があるだろうか


あるならエクソシストという立場だけの話だ


「そこはティッキーが責任もって連れてきてよ」

「簡単に言ってくれるよな」

「好きな子口説くくらい、男ならやってみせて」


シオンがじっと此方を見上げている


「…大丈夫だって」

「そうそう、ティッキーって顔だけはいいから大丈夫だよ シオン」

「顔だけって言うな」


くしゃりとシオンの顔を撫でれば、シオンが小さく笑う


「僕ね、それに関しては心配じゃないよ」

「ん?」

「ティッキーは、ねえさまを幸せにできるんだ」


またも確信しているように告げるシオンにティキが苦笑する


「その自信、どっから来てるんだよ」

「ティッキーは、僕が知らないねえさまをたくさん知ってるもの」


シオンは笑う


確信をもって


そしてシオンは必ず続きにこう口にするのだ


「僕は、ねえさまを悲しませてばかりだったもの」


寂しそうに笑うシオンに、何も言えない自分が無性に腹がたった





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「…ねえさま、綺麗」

「でしょ?ボクの見立ては完璧なんだからぁ」

「……………」

「ティッキーにはサービスショットいれといたからねぇー」

「……アリガトウゴザイマス」

「まあ、夜はこれでしばらく寂しくないでしょ?」

「………お気遣いどうも」

「どういたしましてー」




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