cry of soul 1

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人間生きるためには"食"が必要だ


タンパク質に脂肪にデンプン


カルシウムにビタミンに鉄分


偏った食事が人を破壊する


人間って繊細だ


どんなに苦しくったって


どんなに悲しくったって


結局食欲だけは沸き起こる


人間って、鈍感だ






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第6話 を纏いし少女
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パクパク

モグモグ


「はーい ブイヤベースとベーグルサンドお待ち」

「いや、こんなに手のこんだものでなくて…」

「お黙り!コックに腕をふるうなというの!?」

「いえ、そうでは…お手を煩わすほどのものでは…」

「食べたいものを注文なさい!!」

「…………えっと、…」

「注っ文っ!!!」

「……すみません、ではカフェオレとバウムクーヘンを」

「かしこまりー!!」


パクパク

ゴク モグモグ…



イノセンスが体内へと入り、まず異変を感じたのは食欲であった


すでにジェリー料理長が4人前の食事を提供してくれたというのに皿は見事に空である


(食べている、気がしない)


味覚も歯ごたえもちゃんとわかる


それでも満腹感は感じない


空腹感はないのだが、動き回るエネルギーが切れた


ついて回るのはそんな倦怠感であった


「……底なしかよ」

「…………自分でも驚いているよ」

「神田が食が細すぎるのよ ほら、コレも食べたら?」

「いらねーよ」


教団のなかの案内をかってでてくれたリナリーは、まずは食事にしましょうとイツキを誘った


やってきた食堂には人がまばらで、一人で食事をしていた神田の横ににリナリーが腰をおろしたため、自然とイツキも神田の前へと腰をおろした


大量の食事をとるイツキにうんざりしたように神田が呟いたのをやんわりとリナリーが諭してくれた


「寄生型は消費エネルギーが膨大だって聞いたことがあるわ」

「寄生型?」


自分の身体の違和感に悩むイツキに答えたリナリーの言葉のなかに聞き慣れない言葉がひとつ


「イノセンスには型(タイプ)があるんさ」


隣いい?とトレイをもってきたラビに、どうぞと席を勧める


「おめっとさん!やっぱ適合者だったんだな」

「…………そうだね」


仲間増えて良かったな、とリナリーに笑いかけたラビはこそりとイツキを盗み見た


この女の目は深い闇のなかにある


ゆらゆらと揺れる瞳は、眩い未来を見ようとはしていない


それでも危険性を感じないのは、彼女には悪意が全く見られないからだ


悪意がないのか、それとも人にあまり興味がないのか


「…さっき、イノセンスには型があるって、」

「おお、そうさ 教えてやろーか」


ハンバーガーにかぶりつきながらそう言えば、イツキが素直に首を縦にふった


「対AKUMA武器用に特化したイノセンスには大きく分けて2つの型があるんさ」


1つが装備型、もう1つが寄生型


「イノセンスの原石を加工して武器化したものが装備型 ちなみに俺達はみんな装備型」


"俺達"という言葉に首を傾げれば、ユウとリナリーと俺とラビが改めて言う


リナリーも?と驚けば、リナリーがそっと笑った


こんな華奢な少女が戦場に立つのか、なんともやるせない気持ちになって見つめていれば、リナリーが周囲を指さした


「見分け方は簡単よ?胸にローズクロスのついている黒い団服を着ているのがエクソシスト」


科学班は大抵白衣を着用しているし、分厚い白いコートを着ているのは探索部隊だとリナリーが告げた


どうやら自分が考えていたことは悟られなかったようだ


リナリーに適当に相槌を返してラビの話に再度耳を傾ける


「んで、イツキの"寄生型"ってのは、イノセンスが適合者の肉体とシンクロして武器化するもんなんさ」


ずいっとラビが顔を近づける


「寄生型!実はすっげえ稀少なんさ 俺も興味津々!!」

「ちょっとラビ!顔近いわよ」


好奇心が爆発しそうなラビをリナリーが諫める


そんなに期待してもらっても、まだお披露目できるような代物は身についていない


「どんな能力なんさ?」

「………」


リナリーが食事に誘ってくれるまでの1時間、試すことはいろいろあった


イノセンスの固有名とまるで導かれるかのように、使い方は思っていたよりも容易であり難しかった


ズブリ、


積み重なった皿の影に指を"突っ込む"


ズブズブと、まるで沼に沈むかのようにイツキの指先が呑みこまれていく


目を丸くするラビ達の前に指を引きずり出せば、指先には黒い物体が握られていた


グネグネとイツキの手の上でソレがうねったかと思えば、パシャリと液体のように零れて再び皿の影へと落ちる


「影を、触れるようになった」


おおっ!と驚嘆の声をあげたラビ達に、イツキも曖昧に笑う


指の付け根に浮かび上がった黒いリングが、始まりであった


「どう扱うかはまだまだ検討中 とりあえず鍛錬しないといけない」


その言葉と共に、イツキが席を立つ


どうしたの?とリナリーが問えば、イツキの視線の先にはコムイがいた


「動けるかい?」

「もちろん」


コムイの問いにそう答えながらイツキが大腿に装着していた銀銃をコムイに預ける


「へー、結構年代もの?」

「さあ?」

「兄さん?」


話の見えないリナリーがコムイに首を傾げれば、ああ、とコムイが苦笑した


「検査、いろいろやるんだ」

「私、何か手伝える?」

「いや、いいよ リナリーはゆっくり休んでいなさい」


またあとで、と笑ったコムイとイツキに、リナリーもまたねと笑った




「まずは身体測定からだね」

「…………」

「視力とか聴力とか、片っ端から測るからちょっと疲れるかも」



コツコツと、廊下を歩む二人の足音にコムイの明るい声だけが響く


「イツキくんって視力いい?」

「まあ、人並みくらいは」

「IQ検査もやっとく?上手くいったら科学班の仕事手伝ってもらえるかなー」


コツコツと、足音が響く


人1人空けたくらいのスペースが、2人の間にはあった


"任務"として、ラビと神田くんにイツキくんを連れてくるように言い渡した


"任務"の前には必ず探索部隊を使っての調査がある


隣にいる彼女はAKUMAから逃れ続けていた


脚力だって、判断力だって恐ろしく高いと報告を受けている


AKUMAには有効ではないというだけで、銃を引き抜けば数十メートル先にある金具も打ち抜いたという


改良するからと預かった銃は、想像していたよりも重く


酷く使い込まれていた


この年で、


この華奢な腕で


こんなにも銃を使用する環境があったというのだろうか


「聞いても?」

「ん?何だい?」

「神を、信じてる?」

「え?」


トントン、と胸のローズクロスを指さして、彼女は至極真面目な表情で問う


「苦しくなったら、神に祈るの?」


答えろ、と金色の目が言っていた


「僕は、」


「仲間を、信じてるよ」



現実で傷を負う仲間よりも、目に見えない神の方を信じるわけがない


戦った仲間達が得たものばかりだ


加護だの慈悲だの、そんな精神的なものばかりに頼っていては今日だって終わらせることはできない


「………それなら、いいわ」



どこかほっとした表情を彼女に首を傾げれば、再び笑みは姿を消して


「検査、好きなものを調べればいい」


そういった彼女は、この後各検査で信じられない高数値を叩きだした


ここから半年間、彼女には一切の任務を与えず己のイノセンスとのシンクロ率の向上だけを僕は言い渡した



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彼女の目に宿るのは、どこか諦めにも似た刹那の光





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