cry of soul 1

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ねえ


もしも、


もしも私が普通の人間で


普通に生活ができる人間で


普通に笑える人間で


AKUMAの声なんかに気をとられるような人間でなかったら、


貴方達と出会うことはなかったのかな


そんなことを考えても意味がないし、何も運命は変わらないっていうのはわかりきっているけど


正直言ってわからないんだ


この世界に足を踏み入れたことは


過ちだったのかどうかなんて





過去を思い出すことが怖い


事実から逃げることは卑怯だとわかっているけれど、


受け止められないことだってある


お願い


まだあの時の答えを問わないで





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第2話
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「……」


いきなりどこぞに連れていくと言われて、ついていくような子どもではない


イツキは自分の前に降り立った青年に自然と身構えた


AKUMAの声こそ聴こえないが、世の中にはAKUMA以外にも危険な奴は吐いて捨てるほど存在する


状況証拠からみると、助けてくれたかもしれない


それでも信用できるとは断定できない


「…チッ」


そんな思惑を読み取ったのか、イツキが身構えたのを見た青年は舌打ちをした


よく見てみたらこの青年、目つきも態度も悪い


「助けてもらったことには感謝する」

「……………」

「それだけだ 私はどこにも、」

「面倒くせぇ 寝てろ」


イツキが拒否するのを無視するように男は片手を振り上げた


ヒュン!


風をきる音に咄嗟にイツキも反応を返す


大腿に装着していた銃を引き抜き、即座に構える


鳩尾に青年の刀の柄が入れられるのを、なんとか防ぐ


殺意こそは互いにないが、それでも常人では捉えることのできない速さだ


「…っ…!」

「!へぇ」


銀色の美しい銃が月光を鈍く跳ね返す


イツキの目つきが戦う者の『ソレ』に変わったのを青年は視界の隅で確認した


((こいつ 出来る))


互いが互いの力を悟り、次に備えるように再び距離をとった


掲げられる剣の切っ先


向けられた銃口


飛び道具であるイツキの方が有利にも思えたが、迂闊に動かない彼女を見て、相手も戦い慣れたものなのだとキルは思った


ただ風の唸る音だけが聞こえる


2人の間の緊張感が極限まで高まろうとしたその時、


「なーにやってるんさぁ ユウ?」


明るく間延びした声が断ち切った






(何? コイツら)


キツネ目の次はタレ目か、となかなか失礼なことを考えながら、イツキはどこからか地に降り立ったもう一人を確認した


張り詰めていた空気は突然乱入した彼によって分散してしまったようだ


それでも怪しいことに変わりはない


「「…………」」

「初めまして、さ?」


にっこり笑った赤毛の彼に返事をすることもなく、イツキは素早く彼の全身に目をやった


眼帯に赤毛


ヘラヘラと笑っているせいか、キツネ目の青年より幼く見える


「イツキ=ルナティス」


突如呼ばれた名前


スラスラと、理解に難しい言葉が流れ出る


「ドイツ人の父と日本人の母の間に生まれたハーフ」


どこで入手したのか、個人情報を口にする男に、不信感は募るばかりだ


「…ストーカー?」

「AKUMAの声が聴こえる女」


その一言で鼻で笑いながら聞いていたイツキから笑みが消えた


空気がたしかに変わったのをラビは感じた


"関わるな"


彼女の目は暗にそう告げていた


暗く、深い


光の見えない目


「…ま、そう睨みなさんなって」


へらりと笑う彼の言葉も届くことなく、イツキの視線の鋭さは保たれたままである


「あんた、もっと笑った方が可愛いって」

「イツキにケチつけんな!」

「小童、黙っておれ その小僧はワシが咬み千切ってくれる」


軟派に主に声をかける赤毛に、どうやらキルとレムの神経の方が逆立ってしまったようだ


するりとイツキの胸元からレムとキルが抜け出し、赤毛の青年に臨戦体制をとった


「……………」

「……………」


じっと睨み合いが続くと思ったのだが


「凄いさ!ユウ!猫と鳥が喋ってる!!」

「てめぇ…こんな時に何言って、」

「イカすさぁ!俺も一匹欲しい!!」

「やかましいっ!!」


いつの間にか話がすり替わったことに呆れて、遠目に見守るイツキ


何となく、


何となくだが悪い奴じゃないようだとイツキが感じてしまったのも仕方がないのかもしれない





「エクソシスト?」


時間がないし、決して悪いようにしないからと言われ、興味半分、警戒心半分でイツキは青年達についていくことにした


どうせ自分は流れ者


どこかに行く宛があるわけではないし、行きたいところも思い当たらない


目的なんてないのだ


進む道が見えないのは今に始まったところではない


道中とりあえず、と名乗られた


キツネ目の青年は神田ユウ


赤毛の青年はラビというそうだ


只今汽車の中で探り合いのような質問が続いている


彼らは"エクソシスト"と呼ばれる存在であり、AKUMAを破壊するのが主な仕事だそうだ


確認をしたところ、AKUMAを破壊するには"特殊な武器"が必要らしい


「聖職者…って言えば聞こえはいいけど、なかなかしんどい仕事でさー」

「…それで、私にどう繋がると?」


どうにも話が見えない


AKUMAの存在


AKUMAの製造過程


黒の教団


そしてエクソシスト


順に説明してくれるが私に何の用なのか


話の先が全く見えない


「…最近妙な噂が教団に入ってきた」


黙って聞いていた神田が口を開いた


訝しげな表情をしていた自分に気付いたのかもしれない


「噂?」

「歌と言ってもいい ガキ共が歌う童歌だ」

「一般人が聞いても何も思わないだろうけど」


なんだか引っかかるんだよな、とラビが呟き、口ずさみだした




もしも皆が聞こえたら
一緒に帰ろう鐘の音


もしも3人聞こえたら
それは羽ばたく鳥の唄
そろそろ戻ろう日が落ちる


もしも2人聞こえたら
それはきっとママの声
はやく帰ろう待ってるよ


もしも1人聞こえたら
皆に聞いて 聞こえるか
聞こえたのは風の音?


もしも誰も聞けなくて
僕しか聞けない音ならば
それは神様の唄でしょう




数え歌のような静かなメロディー


大した内容ではないのに、どうしてこんなに先を聞きたくないと思うのだろう


聞いたことはない


それでも、メロディーが記憶をかき立てる


「……子供達はここまでしか歌わなかった、でも大人達は続きを知ってた」


そういってラビは続きを口ずさむ


誰のための歌なのか


誰が歌った、唄なのか






死者の歌が背後にせまる
耳元に甘く、魂に響く音
振り返ってはいけないよ

死者は僕を待っている
おいでと手を握られる


もしも声が聞こえたら
皆と帰っちゃいけないよ
キミはきっと笑えない


もしも声が聞こえたら
村にはもう戻れない
死者はきっと知っている
キミに声が届くこと


だから死者は追いかける
だから僕は逃げなくちゃ
走って走ってほら速く


今なら犠牲は僕だけだ




「もう、やめて」


聞きたくないというように耳を塞いだイツキの声が静かに響いた


誰を指すのか


誰を詠うのか


一つのものが、バラバラになっていく


私はただ


静寂と安寧を求めていただけなのに



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記憶に眠る君達の笑顔

あの日はもう、戻ってこない



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