携帯獣
□道理の理屈
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フーッと吐き出した煙が、靄になって消える。同じようにしようとした所で、手から煙の元が消えた。
「何すんだ」
「煙いんです」
灰皿に煙草を押し付けながら、したっぱが言った。ラムダは恨めしげにしたっぱを見て、新たな煙草に手を伸ばす。煙草は手に入ったが、火をつける為のライターが奪われていた。
「返せ」
「嫌です」
「何でだよ」
「煙いし身体に悪いです」
「ンなこたー分かってんだよ」
「副流煙の方が被害は甚大なんですよ」
「お前の身体を気遣えってか?」
「他の連中の、です。せめて人の居ない所で吸ってくださいよ」
「めんどくせ」
火の着いていない煙草を上下させながら、ラムダは吐き捨てた。
「それに、ラムダ様の身体にも良くないですよ。肺癌になります」
「もうとっくの前に俺の肺は真っ黒ですけど?」
「肺癌より咽頭癌の確立の方が上がるんですよ。喫煙者の肺癌率は非喫煙者より二倍、咽頭癌だと三十倍です。三大死因の確立だってあがるんですよ」
「へー」
「心疾患、脳血管疾患がそれぞれ七倍と四倍です」
「詳しいな」
「だから止めてください」
「だったらよう、」
ラムダがポケットに手を突っ込む。したっぱが表情を歪めるのに気付き、口角を上げた。
「健康とは何だ」
「身体的、精神的、社会的に良好な状態であり、単に疾病や病弱で無いこと」
「模範解答ご苦労さん。だが、こう言った奴も居るらしい」
天井を見つめながら、火の着いていない煙草を口から離す。
「快楽こそが、健康だ」
「そんなの、」
「他人が押し付ける物より、自分が優先。たとえ短命であろうと自分がヨシとした物が本当だ」
「私はそんなの認めません」
「何かに似てる理屈だろ」
したっぱの手からライターを取り返して、煙草に火をつける。吸い込み、吐き出した。
何も言わないしたっぱを一瞥して、まだ残っている煙草を灰皿に押し付ける。
「仕事行くぞ」
煙草のにおいが沁み込んだ服に、眉を寄せた。
・・・
授業でやったのでラムダ様に説いてもらった。