携帯獣

□内緒話みたいだろ
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二人が見えなくなってから溜め息を零すどうしてこうなってしまったのだろう。恨めしく思いながら頭を掻いた。


「どうしたんだ?」
「君には分からないよ」


喚くサトシは無視する事にする。全く邪魔してくれたよ。結局答えは聞けてないままじゃないか。


「シゲル」
「なんだい?」
「あんまり仲が良くないみたいだな」
「良くないというか・・・まぁね」
「何で?シゲルって女の子の扱い得意なんだろ」
「あのねぇ・・・」


サトシのずれた問い掛けに余計憂鬱になる。息を吐き出し、腕を掴む。


「さっき。怖い顔してたぞ」
「僕が?」


こくりと頷かれる。そんなつもりは微塵も無かった。脅しているわけじゃないんだから当然だ。でも、彼らにそう見えたのなら、それを間近で見ていた彼女はどんな気分だっただろう。どうして、うまく行かないんだろう。彼女と居ると調子が狂う。


「腑に落ちないって表情してる」
「何かあったのか?」
「はぁ・・・」


タケシは、何となく理解してくれているような表情で。サトシは全く分かって無いみたいで。それが何ともいえない気分を、余計煽る。話すのも癪だけど、状況を打開するにはそれが早いのかもしれない。



・・・



「コレなんてどうかなー?」
「うーん・・・デザインは可愛いけど、その色だとヒカリちゃんと反発しちゃいそうだな。出すポケモンと技でそれは誤魔化せるかもしれないけど、そのデザインの違う色の方が良いと思う」
「・・・凄いね」
「何が?」


絶賛ショッピングの真っ最中。ヒカリちゃんが今度のコンテストで着る為の衣装探し。ヒカリちゃんが可愛いから何を着ても似合うわけだが、やっぱりある程度の機能性も重視しなければいけない訳だ。煌びやかなだけで、動きにくいとボールを投げ辛いだろうし。


「アドバイスがすっごい的確なの!サトシとタケシじゃこうは行かないよ」
「そうかな?まぁサトシは無理っぽそうだけど、タケシさんは、」
「うん。タケシはね。まだいいんだけど・・・サトシは無理かな」


やっぱりそうだ。サトシにこう云うセンスがあるとはあんまり思えなかった。女心なんて分からない!って感じだもんなー。なんていうんだろ。ポケモン一筋みたいな。


「ちょっと試着してみるね」
「うん」


ヒカリちゃんは試着室に入っていった。さっきの服なら・・・と、帽子売り場を覗く。これとか似合いそうだな。でも帽子は視界を遮っちゃうだろうか。一応持っていこう。


「ヒカリちゃーん」
「あ、待って。まだ、」
「うん。いいよ。一回それ着たらこれ被ってみて」


カーテンの隙間から帽子を渡して、試着室から離れる。可愛い子は得だな、似合うから。自分が着るって考えると・・・似合わなさ過ぎて泣けてきた。


「終わったよー!」
「・・・うん。似合うと思うよ」
「本当!?」
「うん。っと、ちょっと待って。リボンが・・・よし」


靴を履いてくるりと回るヒカリちゃん。ふんわりとスカートが舞って、軽やかだ。
気に入ったらしいヒカリちゃんはこの衣装に決めたらしい。それならよかった。
ふと、アクセサリーを発見する。これ、良さそう。
「買うの?」
「!・・・う、うん」
「でもそれって、」
「いいの!」


急いでレジに行って買ってきた。何か笑っているヒカリちゃんが居るけど、気にしない。


「仲悪いの?」
「直球だね」


休憩がてらベンチに座ってジュースを飲んでいると、ヒカリちゃんがそう訊いて来た。


「まぁ良くはないかな」
「どうしたの?」
「・・・あのね、笑わない?」
「うん」
「私さ、悔しいの」
「悔しい?」
「私・・・オーキドさんより研究員として長いんだよ。でもさ、オーキドさんの方が研究員として上なの。別にそれはいいんだけど、悔しいじゃん、やっぱ。で、歳も近いから・・・その、」
「なぁに?」
「ライバルだと思ってるの」
「シゲルを?」
「そう!こんなの研究員の人たちに言ったって笑われるだけだし、当人には絶対言えない。知ってるのはこの子達だけ」


持っていたボールを示す。ヒカリちゃんがそっか、と零した。


「だから反発しちゃうのかなー・・・」
「でも、それならやっぱりちゃんと話した方がいいよ」
「分かってる」


才能がある人って云うのは、羨ましい。でもそれに比例する努力があるって云うのも知っている。

だからこそ、余計に悔しい。


「そんな対抗心だけじゃ、意味ないんだって分かってる」


手に持っていたサイコソーダの残りを一気に飲み干し、咳き込んだ。






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