携帯獣

□勝利への誓い
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「バトルしようか」


ふと、兄貴がそう言って来た。元々負けず嫌いなんだから、当然なのかもしれない。
頷いて返してから、横に放置してあった帽子を深く被った。場所はマサラタウンの外れにある森の開けた場所。流石にマサラタウンの中で出来ない。兄貴とのバトルが普通に出来るはずが無いんだから、当然だ。フルバトル対決。全員がボールに居るのを確認し、帽子を直し、サングラスのズレを直した。その間兄貴は無言で、ただ此方を待っている。


「・・・俺が」
「兄貴?」
「挑戦者」


兄貴の言いたいことが分かった。今は、オレが追われる側なんだ。バトル前特有のピリピリとした空気を肌で感じながら、ボールを空へと投げた。


「タタ!!」


スローモーションに見えるくらい、ゆっくりとタタが倒れた。タタが倒れたと云う事。手持ちで戦える子は誰も残っていない。最後の一匹だったんだ。

スッとタタを抱き締めてからボールに戻す。負けたと云う現実が目の前に広がっていた。


「負け、た」


兄貴がピカチュウを撫でているのが見えた。悔しい。一回勝った程度で喜んでいちゃダメなんだ。やっぱり、兄貴は、遠い。
やっと追いついたのに、直ぐに突き放されてしまった。それも更に遠くへ。


「っそ、」


帽子ごと頭を抱える。悔しさで泣きそうだ。驕りがあったのかもしれない。いや、そんなもの。少なからずあったとしても兄貴を目前にした瞬間、霧散した。この人相手にそんな事は思えない。

兄貴は始まる前に自分の事を“挑戦者”と言った。けれど兄貴の威圧感はそんな物じゃなかった。明らかに“頂点”のもの。


「立てる・・・?」
「立てる」
「泣いてる」
「泣いてないっ!そんな格好悪い事しない!」
「それは格好悪い事じゃない」
「兄貴には、わかんない、よ!」


早く回復させてあげなきゃいけないのに。
目の前が霞んでそれどころじゃない自分が情けなくて許せない。でもサングラスを外したくない。ポン、と頭に兄貴の手が乗った。見上げるのが嫌だから俯いていたら、空気が動く。

兄貴がしゃがんだんだ。ピロンとピカチュウの尻尾が頬を掠めた。


「お疲れ」
「子ども。じゃない・・・し」
「子どもだよ」
「ちが、う!」
「可愛い妹だもの」
「うぅー・・・」


何度も何度も目尻を拭っても、止まらない。泣いてない。悔しくて泣くとか格好悪い。それに負けた相手に慰められてるとかもっと格好悪い。

兄貴の足の間に座り込んで、ずっと頭を撫でられている。ピカチュウが此方を覗き込んでいるのがぼんやり見えた。ぎゅうっと兄貴のズボンを握り締める。


「次、は。勝つ・・から!!」
「待ってる」
「絶対、絶対・・・!!!」
「うん」


次は必ず。勝つんだ。






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