poke2
□世界を知らない私は君を慰める手立ても分からない
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BW2のネタバレ含みます
久しぶりに会ったヒュウの頬に引っ掻き傷を見付けて救急箱を取りにいこうとしたけれど、いきなりヒュウに腕を引かれて気が付けば抱き締められていた。強く強く、離さないと云わんばかりに。私は苦しくて力を緩めてもらいたかったけれど、言うことも出来なかった。ヒュウの様子が尋常じゃなかったからだ。
「ヒュウ・・・どうしたの。何か、あった」
ヒュウは答えない。その代わりまた腕に力がこもった。息苦しい。胸郭が圧迫されて呼吸をするのも難しいかった。言葉なんて出やしない。
「・・・チョロネコ、」
「妹のチョロネコ、見付けたんだ」
ヒュウが静かに言った。泣いているみたいな声で。
「プラズマ団のダークトリニティって奴が持ってた。チョロネコは、レパルダスになってたんだ。五年も経ってれば、そりゃ進化もするよな」
乾いた笑いがヒュウの咽喉に張り付いて、私の不安は増していく。
「チョロネコ・・・レパルダスさ、おれのこと忘れてたんだよ。敵を見るみたいに憎しみの籠もった目でおれを見てた」
「その目を見たときどうすればいいか分からなくなった」
ヒュウが妹さんのチョロネコを必死に探していたのは知っている。チョロネコを守れなかった腑甲斐なさに自分を責めて居たことも。責めて責めて、それでも崩れないようにしていたヒュウ。それが崩れた。
「おれ間違って無いよな・・・?プラズマ団は、悪だよな?これで良かったんだよな・・・」
「ヒュウ」
「良かったって言ってくれ。誰かに、肯定してもらいたいんだ」
絞りだすように続けたヒュウはとても弱々しかった。ヒュウは妹さんの事を気にかけて、チョロネコが居なくなった時も他にたくさんあったであろう辛いことも全部抱え込んでいた。“兄”で居るために。それが重荷だとは言わないけれど、ヒュウにとってもチョロネコは大事なポケモンだったから。
「つらかったよね」
「・・・ッ」
「ヒュウ。お兄ちゃんが泣いちゃ駄目だなんて決まり、無いんだよ。男の子だって泣きたい時は泣いていいんだよ」
「・・・」
「お疲れ様。ヒュウ。今はゆっくり休もう」
逆立った髪を撫でる。その毛並みは上等なレパルダスのように柔らかい。ヒュウの呼吸に嗚咽が混じるのを聞きながら、私はヒュウに謝るのだ。肯定する事ができなくて。
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