poke2

□君と僕とお菓子
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「トリック・オア・トリート!」


高らかに叫んだ彼女の格好は、奇抜だった。ムウマージを模した衣装を着て片手にバスケットを持っている。その中には彼女の相棒が居て、耳にオレンジ色のリボンをつけていた。僕が呆気にとられているなんて誰も知らずに、研究員のみなさんは彼女のバスケットの中に次々とお菓子を放り込んでいた。一人の研究員が忘れた、と叫べば彼女の相棒が飛びついて頭をぐしゃぐしゃにしていた。

今日は、ハロウィンだ。

ある程度の収穫を終えたらしい彼女は踵を返して部屋から出ていく。えっと、誰か。


「これは毎年の恒例行事だよ。シゲル君、用意してた?」
「あ、いや」
「なら気付かれなくてよかったね。でも用意しといたほうがいいよ」


そう先輩の研究員さんは笑った。この研究所はいくつかの部署に分かれているので、彼女はほかの部署にもハロウィンをもらいに行ったのだ。僕からすればすごく子供っぽくてちょっと馬鹿らしくも感じた。けれど、彼女はすごくうれしそうにお菓子をもらって、部屋を出て行ったのだ。なんていうか、本当僕って可愛げが無いんだなぁ。子どもでいたい。子どもでいたくない。そんな事が僕の足を止めさせているんだ。



・・・



「大量でしたー!!!」


騒々しく帰ってきた彼女はバスケットを突き付けながら宣言した。僕は机の上にあったキャンディを摘まんで思案する。渡す、べきかな。彼女は自分の机に戻るとお菓子の整理を始めていた。はぁ、と僕は息を吐く。そう、少しだけずっと子どもの彼女がうらやましい気がしたから。と、僕の目の前でふわっとしたしっぽが揺れる。それは彼女の相棒だった。目を瞬かせる僕に一声鳴くと相棒は僕に一つのマフィンを差し出す。それに添えられた紙の切れ端。走り書きで「あげる」と書かれている。そのあと小さく「戦利品は山分け」とも。僕は笑った。

ちょっと前まで仲悪かったのにって言葉は飲み込んで、別の紙に走り書きをして、彼女の相棒にその紙とキャンディを渡す。相棒は嬉しそうに背を向けると彼女の机に戻っていった。

やっぱり僕は君の無邪気さがうらやましいかもしれない。でも、そんな僕は想像できないから君がそうで、僕がこうだからちょうどいいのかもね。もらったマフィンは少しだけ甘かった。









・・・










ハロウィンフリー!

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