携帯獣

□君が二度と、
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それは昔からの我儘だった。何度も何度も同じように言っていた事だったけれどもそれが当たり前になってしまったら、引き返せなくなっていた。

でも、例えば。
例えばの話。

マサラタウンから一歩も出ないで旅にもいかなければ世界は何も変わらないままだった。狭い町の中で一生を終えてしまったかもしれない。人生は長いから外に出る機会もあったかもしれない。でもそれは遅すぎる旅立ちになったのだろう。あの時、あの日にこの街を出たから今がある。

結局例えばすぎてどうしようもないし、途方もない話だった。

その旅が冒険が、後悔に変わらないようになんとか走って、がむしゃらに。走って走って走り抜けて今この場に立つ。


「俺、強くなったんだ」
「テレビで見てたよ。サトシ連絡くれないからさ。ねぇ知ってる?シゲルもこの前学会で発表してさ、賞取ったんだよ」
「知ってるよ」
「そっか」
「道が違っても俺とあいつはライバルだからさ」
「羨ましいことで」


マサラに置いて行ったもう一人の幼馴染は気が付けば変わっていたけれど、それは俺にも同じことが言えるはずだ。もちろんシゲルも。


「夢が現実になったのってどんな気分?」
「まだ実感湧いてない」
「へぇー意外。サトシなら滅茶苦茶喜んでると思ったのに」
「喜んでるけど、なんつーかさ」
「ま、良かったよね」


それが聞きたくて待ってたのかもしれない。我儘を貫き通した結果、それは現実へと変わって、良かったのかもしれない。でももういつまでも我儘してるわけにはいかない。




(一人だと呟かないために)















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