携帯獣

□聖夜は宴会で
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ぐったりと机に突っ伏している黒い塊。それは人間だった。もっと言えば泣く子も黙るロケット団のしたっぱである。


「・・・もう嫌」
「そんな嘆くなよ」
「悪の組織なんだからしょうがねぇだろ」
「お前ら馬鹿じゃないの!?聖なる夜だよ!?メリークリスマス!」
「クリスマスだな」


ばこん、と思いっきり机を叩き付けるしたっぱ。怒りなのか悲しみなのかよく分からない表情で、ギャンギャンと同僚達に噛み付いている。


「なのに仕事って何!?」
「それは上に言えよ」
「こんなむっさい男達と一緒にだよ!?せめてランス様かアポロ様が居ればまた話は違ったよ。寧ろアテナ様のとこでもいいよ」
「あー・・・あそこは、」
「パーティーが仕事になってるんだったよな」
「意味分かんない!!」


これまた思いっきり机を叩く。その際に机に広がっていた書類がぐちゃぐちゃになってしまう。その所為でしたっぱは悪態を吐かれる羽目になった。


「私もアテナ様のとこがよかった・・・」
「しょうがねぇだろ、嘆くな」
「せめてイケメン」
「黙れ面食い」
「此処に居るじゃねぇか」
「は?」
「畜生!」
「だったらラムダ様に変装してもらえよ」
「中身おっさんじゃんか。てかお前らも出来るんだからしろよ」
「悪いな、オレは女専門なんだよ」
「女装趣味かよ」


けっ、と文句を吐いてからまた書類に手を伸ばす。整えた書類には皺が寄っている。文句を言われるかもしれないが、言いたいのは自分の方だと思っていた。それっきり黙々と仕事を進める数名のしたっぱ達。世間は俗に言うクリスマス。そんな日をこんな陰鬱な部屋で過ごすなど、気分が滅入るのも当然だった。

せめてケーキでもあれば、と思うものの抜け出して買いに行くのもそれはそれで面倒だ。寒いし。


「彼女欲しい」
「今から頑張れば来年までには間に合う」
「それまで続けばな」
「初詣なら行けるよ良かったね」
「つめてぇ奴ら」
「さっき私にも似たような反応だったくせに」
「よーやってるかひゃひゃ!」
「テメェ!」
「仕事抜け出して何してやがった!」


扉が開き、入ってきたのはまた違うしたっぱだった。高々笑いながら着ていたコートを脱ぐ。それを無造作に放ると、笑いながら机に近付いていく。


「ンだよぅ。どうせ仕事で滅入ってんだろうと思ってよ」
「で?」
「情報収集がてらに、ちょっと」
「何か良い匂いすんだけど」
「買ってきたんだぜー?まぁ正しくは買わせた、なんだけど。フライドチキン」
「よくやったぁぁぁぁ!!!」
「酒は?酒!!」
「ねぇな」
「ちくしょう・・・」
「でもちょっと雰囲気出た!それだけで充分だよコノヤロー!」
「オイ、今直ぐ机開けろ!」


全員が凄い勢いで机の上を片付け始める。皺の付いていた書類は更に皺を増やしたが、この際そんな事は些細な事だ。いくつになってもクリスマスを楽しみたいのだから仕方が無い。


「どうせならよ。ムカつくからラムダ様が隠してる酒飲んじまわね?」
「誰が責任取るよ」
「じゃぁアポロ様の秘蔵の酒取ってくるか?」
「責任は、」
「ラムダ様で」
「よしきた」


着々と計画を進めていくしたっぱたち。普段の行動はあまり早くないが、本気を出した時の行動力はロケット団内一と言っても良かった。


「見つからないように、慎重に」
「待てコラ」
「うわっ!?ラムダ、様・・・」


部屋の外に出た瞬間、ラムダに捕まるしたっぱ。これでは作戦は失敗してしまう!どうしようか思案していると、ふとその手に何か抱えられているのに気が付いた。何かいい匂いもする気がする。


「他の隊には内緒だぜ?」


そのまましたっぱはラムダと一緒に部屋に逆戻り。ラムダの手に抱えられていたのは
クリスマス用のご馳走だった。先ほどよりも甲高い、寧ろ奇声を上げて喜ぶ。シャンメリーを開けて料理にかぶりついた。


「メリークリスマス!」
「めりくりめりくり」
「ひゃひゃーっ!」


提出された書類は、自棄が感じられるほど完璧だった。皺くちゃな事を除けば。
こんなクリスマスもアリだろう。






・・・









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