give me...

□模擬試合
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人々がざわめいている。いくらかの喧騒の中、首を傾げた。


「先輩先輩」
「どーした」
「今日って何かあるんですか?」
「あー、あれだ。したっぱ連中がやってる非公式の模擬試合」
「う?」
「幹部様方は認てんだけどな、一応非公式。レベルが上がるならまぁいいか、程度の」
「ほうほう」
「まぁ何勝かしたらいいんだよ」
「へぇ」
「で、したっぱ全員参加な」
「僕もですか?」
「そうだよ。お前は手持ち違って有利なんだから気合入れろよ」
「はい」


淡々と頷く。もう少しバトルと云う物を面白がってもいいとはおもうのだけれど。したっぱ先輩(通称ベリー)が簡単にルールについての説明を付け加えた。道具の使用はOK,勝負は2対2,五勝以上したら商品ゲット、と云う事だった。幹部は一応出席はしないが、気分によっては入ってきたりするらしい。


「これっていつからしてるんですか?」
「ずっと昔からだよ」


その意図することがどういう意味かはよく分かった。分かったからこそ詮索する必要は無い。だから、


「僕頑張ります」
「おう、頑張れ。“上を目指す”いいチャンスなんだぜ、これはな」


できる事、やれる事、居ていいと思わせるために、自分の力を誇示するためにも。



・・・



「はいはい。司会はオレがやらせていただきます!では、まずー女神隊より、」


始まった模擬試合。ユーレイがベリーの服を引っ張って、女神隊の意味を問うた。何でもしたっぱの中で通っているそれぞれの隊の名前らしい。
女神隊はアテナ、れーこく隊がランス、ドガース隊がラムダ、そしてチョコレート隊がアポロらしい。その代わり、バレたら怖いらしいので司会は女神隊しか言わなかった。


「あ、次俺だ」
「先輩頑張ってくださいね」
「まかせとけー」


ベリーがスタジアムに進み出る。それを眺めていたユーレイの隣に別のしたっぱ先輩(通称スマイリー)がやってきた。小さいユーレイを抱え上げてよく見えるようにする。


「ベリーちゃぁん!今回は商品にベリータルトがあるわよ!頑張ってネ!」
「っ、てっめぇ!その呼び方とその声とその口調やめろ!!」
「ひゃひゃひゃ!」
「今の声・・・スマイリー先輩ですか?」
「そ。ラムダ様まではいかねぇけど変声くらいならな。女声はからかう時に使う」
「へぇー」
「つか、あれだぜ?ある程度の変装ならラムダ隊全員できるし」
「本当ですか!」


うわ、びっくりだ。


「あ、おかえりーベリーちゃん」
「るっせぇ。お前らが喋ってる間に勝って来た」
「見てなかった・・・先輩決着早すぎますよ」
「どうせ次あるけどよ。おら、次てめぇだ行って来いスマイリーちゃん」
「ひゃひゃっ!じゃぁ勝ってきてやるよ。よぉく見とけ」


ユーレイをベリーに預けるとスタジアムに向かっていくスマイリー。嫌味だったのに、とベリーが呟いた。それに首を傾げる。


「見とけよ。あいつ、強ェから」


視線の先。ボールに手を掛けるスマイリーの姿があって、真剣な声に息を呑んだ。圧倒的な力の差があるようには見えなかった。でも、そう見せないようにしているのが分かった。遊んでいるのだ。バトルを。


「ひゃひゃひゃ!この程度かよ、雑ァァ魚!!」
「っの!」


数秒の経たないうちに試合は終了したのだった。


「すげぇだろ」
「スマイリー先輩強いんですね」
「ったりめぇだろ」
「スマイリー先輩とベリー先輩ならどっちのが強いんですか」
「どうだっけ?確か戦歴は、」
「44戦中11勝11敗22引き分けだっただろ、確か」
「そうだ。綺麗にゾロ目。どうせなら今日決着つけてぇなぁ」
「ま、俺が勝つけど」
「あぁん?」


二人がいい合いしている。それを聞いていたユーレイは自分の番が回ってきたのに気付いた。ベリーの腕をすり抜けて地面に降りる。二人がユーレイに勝って来いと言った。


「はい」


命令ではない。ただの応援である。それでも、負けるつもりは毛頭無かったから。相手のしたっぱを見る。どこかで見覚えがあると思ったが、皆一様に同じ格好なのだからそう想うのも無理は無いと思い、振り払った。ボールに手を掛ける。躊躇いも無く出したのはスピアーだった。


「どっちに賭ける」
「こっちに」
「まじでか。俺もそっちが良かったんだがなぁ。しゃぁねぇ、流すか」
「そうですね。ほらもう一匹倒れましたよ」
「甲斐性ねぇな」


したっぱ達の模擬試合を見ながら、二人はカードを投げる。暇潰しといい、たまに息抜きとしても。二人は賭け事をしていた。どちらが勝つか賭けている。


「ほら、勝ちましたよ」



・・・



「勝ちました!」
「お疲れさん」


駆け戻ってきたユーレイの頭を撫でる。嬉しそうな顔をしていた。次々に試合は進み、商品が貰えるのは決定的になった。そろそろ試合も終盤、残りはあと数回となっていた。


「お、」
「あ、」
「先輩達が」
「おや、」
「面白くなったな」


ニヤリと口角を吊り上げ、心底面白がっているという表情を作る。これほど面白い対戦は滅多にない。


「中隊長クラスの勝負だ」
「どっちに賭けますか」
「決まってんだろ、こっちだ」
「でしょうね。私は此方に賭けますよ」
「だろうな。って、そんなに賭けんのか」
「信頼してますからね」
「しゃぁねぇなぁ。俺もこんだけ積むよ」
「後で吠え面かいても知りませんよ」
「そりゃこっちの台詞だってぇの」


両者向かい合う。手の内は知り尽くした相手であるし、どんな戦い方をするのかも分かりきっている。どちらが有利でどちらが不利などもない。


「行くぜ、ベリーちゃん」
「来いよ、スマイリーちゃん」


同時にボールを投げる。息が詰まるような攻防でありながら、楽しんでいるようにも見えるソレ。

軍杯はどちらに。







・・・・











番外編。本編にしようかとも思ったんですが、あまりにも私的設定すぎると思ったのでやめました。どっちが勝ったのかは皆様にお任せしますっ。

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