give me...

□蒼い月は不思議
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出来るならそんな話は信じたくなかったけど、上司から聞かされたのは紛れも無い事実だった。




くっと息を呑んだ。
あからさま過ぎるほどの違和感を感じながら、ユーレイは廊下を走り抜けていた。バタバタと追いかけてくる足音が聞こえてくる。振り返り様に放ったあやしいひかり。
足止めにでもなればいいと。


「可笑しいと、思わない?」
「ゴースット」
「見つかり方が、可笑しい」


横で漂うゴーストがゆらゆら身体を揺らす。此方は別に建物を壊しても構わないが、追う側は壊すわけには行かない。そのお陰でたいした攻撃はしてこないが、それも時間の問題だった。ガーディか。火炎放射とか喰らいたくないな、と思いながら。


「あっちだ!」
「追い詰めろ!」


荒々しい声が廊下内を反響する。電気線はとっくの前にぶち壊した。明るいままじゃやってられない。ユーレイが廊下を曲がれば前からぐるるると唸る声。警備員のポケモンだった。


「ちっ」
「ガーディ火炎放射!」
「水の波動」


素早くボールを投げると同時に指示。それでも少し向こうが早く、火炎放射はユーレイの腕を少し焼いた。
その後直ぐに放たれた水の波動。混乱でもしてくれたならもうけものなのに。水と炎のぶつかり合いで上がった水蒸気が廊下に霧をかける。ヤドンの腕を引っつかんで反対方向へ走り出す。上へ上へと駆け上った。


「やぁん?」
「ゴーストッ」


ユーレイが辿り着いた屋上には風が吹いていた。下には警報を聞きつけた野次馬がひしめいていた。腕が痛む。微かに香る肉の焼けた匂い。でも、それはどうでもよかった。やり遂げる事をすればいい。ガンガンと階段を上がってくる音が聞こえ、ユーレイは屋上の入り口を振り返った。


「何だ、一人か」


呆れたような声色。ユーレイは目を細めそれらを威嚇した。ぞろぞろ姿を見せる警備員。人口的な光に照らされ、その盗人の姿が浮き彫りとなる。


「子供!?」
「手持ちは一匹だけか?」
「大人しくしろ」


口々に浴びせられる言葉に一つも動じなかった。


「コクーン」


ゆっくりボールを投げ、コクーンを出す。ギラリと鋭く睨みつけた。ガーディにイトマル。面倒な事だ。


「火炎放射!」
「糸を吐く!」
「水の波動、固くなる」
「多勢に無勢だ!畳み掛けろ!!」


火の粉が舞い上がり、月を紅く染め上げる。それが束の間であっても。

初めて。口角を吊り上げた。


「シャドーボール」
「ぐぁ!?」


突然の後方からの攻撃に警備員達が悲鳴を上げる。予想より上手く云って、ユーレイは笑みを零した。奇襲は不意討ちが基本なのだから。そろそろかな、とユーレイはコクーンに目線を落とした。攻撃はヤドンとゴーストに任せる。出しているだけで勝手に経験値は溜まっていく。差し出した液体を舐め取ってすぐ、ブルブル震えだしたコクーンの身体に更に笑みを深くした。


「これで御揃いだ」


ペキペキと背中が割れる。光と共に姿を見せたのは、スピアー。


「なっ、」
「蹴散らせ」


それはまさに地獄絵図。




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