give me...
□コインの裏表
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第六書庫の整理をしているしたっぱのしたっぱ。通称ユーレイ。恐らくロケット団員最年少である。名もあるが、本来幹部未満が気軽に本名を名乗るのは此処では許されていない。それは彼らの矜持だ。
黙々とひとりで書類整理を続ける。中身を見て、棚に並べていく。最初は無惨だったこの書庫も、二時間もすればそれなりに見られるようになっていた。そんな時に書庫の扉が開いた。その音に顔をあげ、入り口を見る。ひとり、黒服が立っていた。
「ごくろーさん。ついでなんだけど、この書類どこにあるかわからねぇか?」
ピラリと差し出された紙を受け取る。必要な書類の概要が書かれていた。記憶を辿って一つの棚を指差した。それに黒服の、勿論したっぱがその棚の前に立った。それを確認する事もなく他の書類整理を進めた。そこそこ片付いた。
「・・・大丈夫ですか」
「手伝え」
「はい」
必要な書類が思った以上にあったようでしたっぱは両手一杯だった。それの半分以上を受け取り、運ぶのを手伝った。仕事・・・まぁいいか。先を歩くしたっぱの後ろを懸命に追う。歩幅が根本的に違うのだから、仕方が無い。
「おせぇぞユーレイ」
「すみません」
「此処だ、ほら」
「失礼します」
重たい書類を指定された机において、したっぱのしたっぱは一息つく。相当重かったようだ。その横にしたっぱが書類を置いた。小突かれる。ちょっと痛かった。
「遅いわよ」
「すみませんアテナ様。思った以上に多くて」
「そう。あら?そっちの小さいのは?」
「新入りですよ。聞いた事無いですか?ユーレイって」
「あぁ、あるわ」
何処に行ってもユーレイなんだな、そう思いながらその話を聞いていた。そんなにユーレイっぽいのだろうか。云われている当人は他人事だった。
「ランスの隊だったかしら」
「はい」
「あら?頬腫れてるわよ」
「転びました」
「ばかねぇ。ちゃんと冷やしなさいよ」
「はい。それでは失礼します」
頭を下げてから部屋を出て行った。直ぐに書庫に戻るしたっぱのしたっぱことユーレイ。
中に入り、ぐしゃりと紙を踏みつけた。
「やり直しか」
・・・
「別にお前の隊だし、元々ごろつき連中ばっかだから、そうそう口出しするほどじゃねぇと思ってる。けど、限度があんぞ」
「わかってますよ」
コン、と机が鳴る。無表情で椅子に座ったまま長い息を吐いた。
「対処はするつもりですけどね」
「黙認決め込む気か」
「まさか。現在の人手不足にそんな事をして消すつもりはありません」
皮肉染みた響きを持って。
「気に入りませんね」
帽子を脱いで軽く髪を梳く。全てがそう云うわけではないが、そうでもなく。
「対応しきれねぇんだったら、俺様の隊に寄越せよ」
「人手不足と言ったでしょう。子どもとはいえ、一人でも惜しい」
そこそこ使えますしね、そう付け足して。冷酷は微笑んだ。呆れた溜め息を吐きながら、それでも悪役に相応しい表情でそれを受けた。
「一人を処分するのと、複数人処分するの。そりゃどっちのがいいかなんて答えは決まってっからな」
絵柄か数字か。
どちらでも同じ。悪は巣食うのだから。