give me...

□指詰めで追いやる
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作戦が本格的に始まる数日前。ラムダはアポロの元に出向いていた。珍しく険しい表情をしながら、片手に茶封筒を持っていた。面倒な事があるのは良く分かっていながら。


「おいアポロ」
「どうしたんですか。お前にしては珍しい顔つきですよ」
「まぁな。そんで物は相談なんだが、」
「何ですか」
「ランスのとこに居る餓鬼。俺様の隊にまわせ」
「どうしてですか?」
「ありゃランスの手に負えるモンじゃねぇよ」
「・・・どう云う事か説明してください」


最初は軽い調子で聞いてたアポロも表情を一変させて続きを促す。ラムダは茶封筒を持ち直すと話し始めた。


「お前が調べろつってたから調べてみたんだが、ありゃ唯の餓鬼じゃねぇ。昔、サカキ様が使ってた餓鬼だ」
「・・・!」
「元々は孤児(みなしご)でその辺をうろついてただけだけどな。したっぱが骨が折れたっつってたぞ」
「情報が殆ど無かった、と」
「有る筈ねぇよな。記憶にすら残らないくらい地味だったんだからよ。何とか聞き出した奴も耄碌してそうなジジィだったとか。まぁそう云うのは逆に年寄りの方が覚えてるモンだ」
「成るほど。それで?」
「あ?」
「それだけでは説明不足です。重要な部分が抜け落ちている筈です。“ランスの手に負えない”とはどう云う意味かの説明が。仮にもアレはロケット団幹部ですよ?それでも手に負えない等と」
「あぁ。それか」


忘れていた、とでも云うようにラムダは続きを語る。


「いくつか理由がある。
先ず一つ目。あいつの隊が殆ど新人で固められた特攻チームだっつーこと。ありゃ向かない上に回りが血気盛んな馬鹿ばっかだからユーレイの本質を潰してしまう。それじゃぁ使い勝手が悪ぃ。
二つ目はユーレイが餓鬼な事。ンなとこに子供を出す訳にゃいかねーだろ。
三つ目は・・・こりゃ未だ不確定なんだが、ユーレイには何かしらの特殊性があるって事だ」
「“特殊性”?」
「この前。お前がユーレイに物盗りに行かせた時。ユーレイが帰ってきたときに、喧嘩売りに行ったしたっぱ達が居るんだよ」
「・・・」
「この際それについてはとやかく言いっ子無しだ」


アポロを冷やかす、或いは責める口調で告げた物に対してフォローを付け足してポケットから煙草を取り出した。慣れた手付きで火を点ける。


「その時、一人のしたっぱのコラッタがユーレイのコクーンによって、」
「また違う手持ちを・・・」
「聴けよ。状態異常、つまり毒状態にされたらしいんだ。だがその後うちのしたっぱがユーレイからそいつのコラッタを預かった時、コラッタは有り得ない程元気だった」
「回復の薬。または毒消しとキズぐすりでも使えばどうとでも説明出来ます」
「あぁ、確かにそうだ」


ハーッと紫煙を吐き出してからもう一度煙草を銜えなおす。


「その可能性も捨て切れねぇ。だが態々そんなもん使うか?普通」
「普通ならしないでしょうね」


特にロケット団員なら他人のポケモンを気遣うなどと。


「けれど完全に否定できない可能性だ」
「そうだ。だから保護者に一つだけ確認を取らせた」
「・・・」
「そしたらユーレイはそういう類の薬を持ち歩く事はしていないらしい。買う金もねぇし。あいつ、給料入ったら菓子買うからな」
「木の実があるでしょう」
「まぁな。けどユーレイの持っている木の実に毒消しや体力回復な物は在れどPP回復が出来るモンは、」
「待ちなさい。その話を私は知りませんよ」
「おっと忘れてた。つまりしたっぱのコラッタは“完全回復してやがった”んだよ」


完全回復、とアポロが口の中で呟く。口元を掌で覆うのはアポロが何かを考える時の癖だった。だからその思考が終わるまで待つ間に、ラムダはまた別の煙草に火を点けていた。


「色々腑に落ちませんね」
「だろう?」


考えが終わったらしいアポロがぼやき、ラムダが笑いながら同意する。合点の行かないところは多数ある。恐らくユーレイの口から話させるのも難しいだろう。実際ユーレイはアポロの尋問を尽く拒否した。ユーレイがサカキと関わっていたと云う事実は、驚きこそすれ少なからず納得した。可能性を考えていたからだ。


「ランスの手に負えないのがその特殊性ですか」
「一番はな。が、環境が悪いってのもある」
「・・・」
「それと隊は俺様ンとこに入れるけど部屋はそのまんまにしといて欲しい。でねぇと壊れる」
「・・・」
「一応纏めた資料だ。後は好きに考えろ。そんで、決めろ」
「・・・構いませんよ。異動させましょう。お前の隊に」
「どーも」
「ちゃんと処理できるんでしょうね」
「してみせる、ってトコだな」


その後適当に作戦の打ち合わせをしてからラムダはアポロの部屋を後にした。先ほどアポロに告げた事は全て事実であるし、理由でもある。だがそれだけではなかったのだ。引き剥がすのは可哀想過ぎる。だからそれだけは阻止した。最初に見たときの、無表情にしたっぱ達を見ていた眼。あんな眼する餓鬼が“普通”な筈が無い。風邪で寝込んだ時の医者の話。医者の話と合間って異常性を感じる。三つ目の理由として上げた特殊性。説明し切れない。憶測だけで語るには何もかもが少なすぎる。

アポロもアポロで考えていた。
ラムダの話と統合させるならば、あの、熱に魘されてぼやいていた言葉。注射が嫌だと言った事。それは殺すものだと、皆死んだと。


「チッ」


舌打ち一つ。それからその原因を頭の隅に追いやった。もう本格的に作戦が始まるのだ。
たった一人のしたっぱの為に時間と労力を使うなどとは馬鹿らしい。放っておく訳には行かないが、今は置いておくしかない。せめてもっと早く分かれば良かったものの、と愚痴った。






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