携帯獣

□堕ちていく覚悟なら
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空の青さと海の青さは似ているようで違う。色の散乱と反射では、全く持って異なる性質と云う事になる。でも結局は青だ。何であろうと結局は青。

空が堕ちれば何もなくなるのに。人の夢が儚いように。それは三年前から分かっていた事じゃないか。ううん、私はそれよりも前から知っていたのかもしれない。幻想(ファンタジー)なのだから。現実(リアル)にはありえない。


「アポロ様」
「何ですか」
「もう、行きましょう」
「何処に行くと言うのです。私にはこれ以上の場所を知らない。此処しか知らない。何も知らない」


誰が頼んだ。夢を野望を壊してくれと。誰がこの人を壊せと言った。崩れてしまった心と折れてしまった野望を抱えて生きていける事ができるのか。そんなもの、無理だと言えるだろう。余程のことがない限りそれを越える事なのできない。


「アポロ様、此処は冷えます」
「大丈夫です」
「大丈夫は答えにはなりません。アポロ様、行きましょう」
「嫌です。お前が行けばいいでしょう」
「私一人で行くのでは意味がありません。アポロ様」
「くどい」


酷く傷ついている声をしながら、何故そうも拒絶をするのだろうか。このまま置いておくのは簡単だ。牙の無くなった犬を捨てるのは、ダンボールに仔犬を入れ捨て置くくらい簡単なものだ。飼い慣らされ、主人に忠誠を誓ってしまった犬は主人から離れる術を知らない。


「私は捨てませんよ」
「ならなんですか、拾う者にでもなると?馬鹿馬鹿しい。お前は、」
「私はアポロ様の部下です」
「もう違う」
「いいえ、ずっとそうです。だからアポロ様」


空青には何も映さない。嗚呼、それが野望を燈していた頃が今では懐かしく感じます。


「たった一度の失敗で、諦めるんですか」
「・・・!」
「サカキ様に声が届かなかったのか、サカキ様は届いたけれど間に合わなかったのか。サカキ様に届きはしたけれど来てくださらなかったのか。それは分かりません。けれど此処で立ち止まって何が残りますか」


費やした月日は三年。たかが、なのか。されど、なのか。その判別が出来るような人間ではないけれど。


「どうなさいますか、アポロ様」


貴方が選んだ道に、私は付き従います。





(とっくの前にできていたから)
(それが死であろうとも)

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