携帯獣

□対立論
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モンスターボールに手をかけながら、静かに二人はにらみ合っていた。両者一歩も動かず、ただ静かににらみ合っていた。ピリッとした空気が二人を包んでいる。


「間違っている」
「いいや。間違っていない」


口を開いた二人は、それでもにらみ合っていた。どちらも一歩も引く気はない。


「お前なら、分かってくれると思ったのに」
「言い分は分からないわけじゃない。でも、間違っている」
「何が間違いだというんだ」
「人間からポケモンを解放する。ポケモンの理想郷。その為に犠牲は厭わないと言う事」
「当然だろう。この世界に人間は不必要だ。大気を汚し水を汚染する。そんな存在はポケモンにとって必要ない」


静かな声色に、怒りがこもる。それを肌で感じながらも、見据え続ける。


「分からないのか。ポケモンは森羅万象、万物を操れる。洪水も日照りも雷を落とす事だってできる。
嵐だって渦潮だって地震を起す事だって。なのに今までそうしなかったのは、ポケモン達が私たち人間を見限ってないに他ならない」
「だからだ」
「・・・なに」
「それだけの力があってなお、何故ポケモンが人間に服従し、圧せられなければならない。可笑しいだろう。
それこそ“間違っている”だ」


淡々と、お互いを言葉で打ち負かすつもりで。説得する気は毛頭ないが、考えが揺らぎ、此方に傾く事を望みながら。


「穢れた人間の手からポケモンを救う。この世界に必要なのは選ばれたトレーナーだけだ」
「選ばれた、だと。馬鹿じゃないのか。大馬鹿だ、ワタル!」
「人間の所業で傷つくポケモンがどれだけ居ると思っている。自業自得な人間とは違う。
被害を受けるだけだ」
「意味は分かるさ、そのくらいな。でも、だから?全てのポケモンがそう願ってるわけじゃない。今まで、」
「今まで巧くいっていたと?あぁ、確かにそうかもしれない。でも、ならば。その均衡を破ったのは他でもない。人間だ!」


言葉を荒げる。言いたい意味が分からないほど二人とも馬鹿ではない。けれど、考えを変えるほど弱い意志で向き合っているわけでもない。

飲み下した。全てを。


「この考えを譲る気はない」
「それでも構わん」
「止める」
「止められるものか。お前如きに」


ボールを投げる。片方はカイリュー、もう片方はウィンディ。


「知っているだろう。このカイリューがどんな目に遭ったのか」
「・・・知っている。そして、」
「そのウィンディがどんな目に遭ったのかも」


ぎちり、ボールを握り締める。


「破壊光線!」
「火炎放射!」


爆発が起きる。視界が煙で覆われ、晴れた頃にはカイリューもその持ち主の姿も居なかった。

地面を蹴りつける。言いたいことが分からないわけではない。でも間違いだ。今の世界を肯定する気もないが、其方の意見を肯定する気もない。

止めてやる、野望を。
消してやる、幻想を。

見放すには惜しいが、護り続けるには醜すぎる。この世界。





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