R×Y

□1st anniversary
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ここ数日、悩んでいる事がある。

コムイ室長のサボり癖の事ではない。それは昔から変わらない悩みで今更改めて言う事でもない。

体調が悪いとかでもない。慢性的な睡眠不足だから体調が良いとはお世辞にも言えないし、月に1日くらいは目の下にクマが出来ない日を与えられてもいい気はするが。

とにかく悩んでいるのはそんな事じゃなくて。
神田の事、だ。

神田の事、というのは正確じゃないかも知れない。
神田との事、と言った方が正しいかも知れない。

数日ぶりに帰った自室で、俺はカレンダーをジッと眺めていた。

俺の記憶に間違いがなければ、明日は俺と神田が付き合い始めてからちょうど1年目に当たる、いわゆる記念日だったのだ――――。



「うーん…」


記念日ならば記念日らしく、何か記念になる事をしたいと思った俺は、あれこれと思考を巡らせていたのだが。

ふと、記念日は本当に明日なのかという疑念に囚われた。

そもそも俺達は、よくある「付き合ってください」「はい」みたいな一連のやりとりをして付き合い始めたわけじゃない。
どちらかと言えば、気付いたら付き合っていたという感じに近い。
だからハッキリといつだと断言出来ない節がある。

俺個人としては、あれだ。2回目のキスをした日、だと思っているのだが。

事故を含めればあのキスは3回目になるけど、事故は事故だから数に含めるのもアレだ。

1回目のキスの後は、何を言うでも無く神田が逃げていってしまったから話しも出来なかった。
でも2回目の時はちゃんと気持ちを確かめた上でキスをして、した後も神田は逃げずにいてくれて。

あの時、「付き合ってください」こそ言わなかったけど、俺達の関係が変化したのは確実にそこからだった。

だからこそ、あの日がふたりのスタートで、丸1年後に当たる明日は記念日になる。

そう思うんだけど。

「神田はどう思ってんだろな…」

俺は窓の外に視線を移し、異国の地で闘っているであろう神田に、思いを馳せた。



◇◇

昨日の夕方に任務へと駆り出された神田の部隊は、少なくとも3日は帰ってこられないだろうと予想された。
方舟のおかげで移動時間こそかからなくなったものの、任務自体の厳しさは変わらないからだ。

今回神田達が向かった地では、今のところノアは出現していなかったが、レベル3のAKUMAが数体、確認されていた。
それらの排除と、イノセンスの捜索と回収。全てを終わらせて帰路に着くのは一晩では厳しいだろう。

同行者がアレンやラビだったら可能かとも思うが、今回神田と共に任務に出たエクソシストは、まだ戦いに慣れていないチャオジーだから、スムーズにとはいかない確率が高い。

そうなるとやはり今日、もしくは明日の凱旋は難しいだろう。
つまり、明日の記念日を共に過ごす事は諦めなきゃいけないワケだ。

まあ、それは仕方ない。
残念だけど、神田はエクソシストなんだから。

けどせめて、帰って来てからささやかにでも記念になる事をしたい。
神田の喜ぶ顔が見たい。
素直に笑顔を見せない神田の、ほころぶ顔を。

さあ、何をしようか。

俺はいっそ科学式を解く時よりも真剣な面持ちで、デスクに向かった。


◇◇


それからの時間はあっという間に過ぎて、翌日の夜。
時刻は9時をとうに過ぎていたけど、俺はいつも通り仕事に明け暮れていた。

午前中、席を空けていたせいで、処理しなきゃならない書類が山になっていたのだ。

「ふう…」

どうにかまとめ終えたのは更に1時間程経ってから。
後はコムイ室長に判を貰えば、今日の分はどうにか終了だ。多分。追加がなだれ込んでこなければ、だけど。

「さてと」
「リーバー班長」
「あ、フェイ補佐官」

椅子から立ち上がり書類の山を手に持とうとした刹那、フェイ補佐官がヒールを鳴らしながらやってきた。
僅かに乱れた髪が疲労を物語っていて、旧本部で室長補佐を兼任していた頃の自分を彷彿とさせている。

どうしたのかと尋ねてみると、室長を見なかったかと問われた。
またいなくなったのか、あの巻き毛。

まあ、フェイ補佐官が俺のところに来るのは室長が失踪した時が大半だから、予想はついていた。
何せ俺は室長を見つける事にかけては教団NO.1なのだ。
こんな事で1番になっても全く嬉しくないんだけどな。…はあ。

とにかく室長を見つけない事には書類に判を貰えない。つまり仕事が終わらない。
俺はフェイ補佐官と手分けして室長を探す旅に出た。


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