R×Y

□ココロのトビラ・後編
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神田の肩がビクリと揺れたのは、きっと気のせいなんかじゃない。
俺が神田の身体越しに、扉をロックしたから、だ。

カチリという無機質な音は、静まり返った室内では不必要な程に耳に響いて。

その音を耳にした神田の心境は、きっと穏やかなものではないに違いない。
俺は神田を、一歩間違えれば拉致とも言える手段で自室に連れ込んだんだから。

「リ、バ…」

もしかしたら、神田は逃げてしまうかもしれないと俺は思っていた。
扉をロックする前の、あの台詞を口にしたら。

でも、神田は逃げなかった。
戸惑ったような顔をしてはいたし、ロックの音に肩を揺らしてはいたけど、逃げなかった。

逃げないでいてくれた事が、酷く嬉しかった。
少なくとも、俺との関係を否定的に思ってはいないのだろうと。

キスより先には殆ど進展していない俺達の関係。
勿論俺は人並みの欲はあるから身体を繋げたいという意識は持っていた。割と早い段階から、だ。

だけど神田が同じように思ってくれているかどうかはわからなくて、俺は一歩を踏み出せずにいた。
神田の望まない事をしたくは無いし、そのせいで嫌われたりもしたく無い。
嫌われるくらいならいっそ今のままの、キスしたり、抱き締めたりするだけの関係でもいいと思った。

嫌われてしまうより、失ってしまうよりも辛い事なんか、他に無いんだから。

「神田…」
「リ、…んっ」

まだ戸惑っている様子の神田の唇にキスを落とす。
触れて、啄むだけのキスを。

神田がそれに抵抗しない事にホッとしてから、今度は少し深いキスをする。
その柔らかさと口内の温もりを確かめてからゆっくり唇を離すと、神田は少し赤みを帯びた顔で見上げてきた。

僅かに眉間にシワを寄せて、僅かに眼を潤ませた、その表情。
それがどんなに俺の気持ちを昂らせるかなんて、きっと神田には想像もつかないに違いない。

そんな事を少しだけ考えてから俺は、そっと神田の首筋に唇で触れた。

「んッ、」

軽く吸っただけで肩を揺らす反応の良さに気を良くして、何度もキスを繰返しながら上衣のボタンに手をかける。
ふたつ目を外したと同時に、神田が慌てたような声を出した。

「リ、リーバー、ちょ、っと待っ…」
「…何?神田」

もしや今更お預けを食らうのかと不安になりながら顔を上げると、神田は視線を反らし、口をもごもごさせていた。

「どした?」
「……で」
「ん?」
「…ベッド…で…」

それだけを辛うじて口にし、トマトみたいに赤くなって俯いてしまう神田。
その云わんとする事を即座に理解した俺は、勢い良く神田を抱き上げた。

「っわ!ちょ、リーバーッ!?」
「暴れたら危ねーぞ?」
「お、降ろせってば!」
「着いたら降ろすって」
「着いたらってどこに…っ!?」

突然お姫様抱っこをされた神田の慌てっぷりは見事なもので、俺は危うく落としそうになったりしたものの、幸いな事に目的地までは僅か数歩。
無事に運びきった俺は、その場所にゆっくりと神田を降ろした。

「っ」

身体の下の柔らかい感触で、神田は自分がどこに降ろされたのかをすぐに理解したらしい。
上から見下ろす俺を、戸惑った様子で見上げてきた。

「……」
「ん?」
「…行動、早…」

赤い顔で言う神田に、キスを落とす。

「とろとろしてて神田の気が変わったら嫌だし」

「な?」と相槌を求めると、神田は俺をジトリと睨み上げながらポツリと呟いた。

「変わんねえよ、馬鹿…」
「っ、」

ああもう。ホントにこいつは。

「神…」

神田のいじらしさに堪らなくなり、勢いよく抱き締めようとした、その瞬間。

「リーバーさーん、いますかー?」
「っ!?」

突然のノック音と同時に聞こえた声に、ふたり同時に身を硬くした。
この声は多分、いや間違いなくアレンだろう。

けど、慌てた様子で身体を起こそうとした神田を、俺は思うようにはさせなかった。
組み敷いた体勢のまま、動いてやらなかった。

「リ…」
「シィ…」

きっと俺の名を呼ぼうとしたのだろう神田を、人差し指を唇に当てる事で制す。
思惑通り言葉を止めた神田に、そのまま唇を重ねた。

「ッ…」
「リーバーいないさ?」
「みたいですね、僕らより大分前にお風呂上がってたから、もう部屋に戻ってると思ったんですけど。多分リーバーさんのだと思うんだけどなー、このタオル…」
「ノブんとこ引っ掛けときゃいんじゃね?戻ってきたら気付くっしょ」
「そうですね」
「用が済んだら行きますよウォーカー。朝までに記入してもらう書類が沢山あるんですから」
「はあい」

扉の前で話していた一行は、案外すぐに引き返して行った。


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