R×Y

□ココロのトビラ・前編
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キスは、好きだ。

リーバーとする、キスが。

俺の方からする事はまず無い。出来るか、そんな真似。

してくれとも言わない。言えるか、そんな事。

だから俺はいつも、リーバーから仕掛けてくるのを待っている形なワケで。

けどリーバーは何て言うか、あまりがっついてないっつーか…。
どっちかといえば俺が痺れを切らすギリギリ位まで触れて来ない事の方が多い。

そしてやっと触れて来ても、優しいキスをして、抱き締めて、頭を撫でて、離れてしまう。

止まらなくなるからと言って。

柔らかく笑いながら離れていくリーバーに、言えない本音を飲み込んだ回数すら忘れてしまった。

本当はもっと触れて欲しいのに、俺はそれを伝えられない。

俺を傷つけまいと、深く触れようとしないリーバーに対して、どうすれば俺は、素直になれるだろうか―――。


◇◇

「神田くん、食欲ないのかい?」
「……テメェのツラ見たら余計にな」

ここ最近、考え事をする時間が増えた俺は、食事中にもぼんやりと思考を巡らせ、手を止めてしまう事があって。

今日も好物の蕎麦を前にしながら箸を止めてしまった俺を、目敏く見つけたらしいコムイが声をかけてきやがった。
はっきり言って今は、コイツのヘラヘラしたツラを眺める気分じゃない。

「あはは、酷いなぁ」
「堪えてねぇクセによく言うぜ」
「隣、いいかい?」
「座る前に聞けよ」
「それもそうだねー」

あはは、と笑いながら、手に持ったコーヒーを煽るコムイ。テーブルに置いたトレイの上にはサンドイッチが乗っている。
けどコムイはそれに手をつけようとはせず、両手の指を重ねてその上に顎を乗せ、無遠慮に俺を見てきた。

「キミが食欲無いみたいだってリナリーに聞いてね」
「……」

そういえば昨日、昼飯の時にリナリーが一緒だったっけ。
確か今と同じで箸が進まなくて、けどリナリーがやたらと心配してくるもんだから無理矢理に蕎麦を流し込んだのだ。

でもそんな努力も虚しく、情報はしっかりとコムイの耳に入ってしまったらしい。

「リーバーくんと何かあった?」
「……別に」
「ケンカ…じゃないよね、リーバーくんは変わった様子無いし」

じゃあ何かなー?とひとりで首を捻るコムイ。俺はクイズを出した覚えは断じて無いんだが。

右へ左へ忙しなく首を捻るコムイを放って、湯呑みに手を伸ばす。
すっかり温くなってしまったお茶をちまちますすっていると、突然コムイが「あれ?」と声を上げた。

「神田くん、髪に糸くずみたいの付いてるよ」

そう言ってコムイは、束ねた髪の毛先に近い部分に触れ、静かになぞって。
離れていった指先には、確かに白い糸くずがあった。

「はい、取れた」
「…悪いな」
「何言ってんの、僕と神田くんの仲じゃない」

どんな仲だとツッコミたくなったが、面倒くさくなって止める。
コイツに何を言ったところで大した効果は望めない。

「それにしてもさー、神田くんの髪ってサラサラだよねー。リナリーといい勝負じゃない?」
「知るか」
「ボクなんて癖毛だし硬いしさー、全然違うんだよ?触ってみてよー」
「いらん」
「えー?じゃあボクが神田くんの髪触っていい?」
「何でそうなるんだよ!」
「だって最近リナリーってば髪ナデナデさせてくれないんだもん!だから代わりに神田くんの髪ナデナデさせてよ!」
「知るか巻き毛シスコン!」

ワケのわからない要求をしてくるシスコンを、いっそ吹っ飛ばしてしまえばスッキリするのだろうが、どうもその気力が沸かなかった。

「やっぱり元気無いね」
「あ?」
「いつもならとっくにボクを吹っ飛ばしてるでしょ?」
「っ」

咄嗟に言葉が出なかった。確かにいつもの俺なら、とっくにコイツを蹴り倒して食堂を出て行ってたに違いない。

「ボクで良かったら相談に乗るよ?神田くんの事もリーバーくんの事もそれなりにわかってるつもりだし、力になれるかもしれないし。ね?」
「……」

珍しく真剣な顔をして、視線を向けてくるコムイ。
ひとりでごちゃごちゃ考えているよりはいいかもしれない。
けど俺は口下手で、何かを説明するのも苦手で。
オマケに内容はというと、経験なんて無いに等しい恋愛沙汰。
何をどうコムイに話せばいいのか、ちっともわからない。


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