R×Y

s.t.v.d.2010
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s.t.v.d.2010



「はい神田、これあげるっ」
「…あ?」

突然差し出されたそれを、神田は数秒間眺めていた。
可愛らしくラッピングされた、神田が手に取るのは似合わない、それ。

「やだ神田、今日が何の日か気付いてないの?」
「?」

今日?今日が何の日か?
…そんなのは知らない。それ以前に今日は何日だったろうかと神田は思考を巡らせる。
自分にとって重要な用事でも無い限り、神田は日付なんてものをあまり気にとめないタイプなのだ。
とりあえず2月にはなっていた筈だな、とそこまで神田が行き着いた時、痺れを切らしたリナリーが口を開いた。

「もうっ!2月14日よ、バレンタインデーでしょ?」

しょうがないわね神田ったら、とリナリーが半ば呆れたように言いながら、神田の手にラッピングされたそれを乗せた。

「あ、ああ……サンキュ」

一応礼は述べたものの、いまいち状況を理解しきれないらしく、手に乗せられた可愛らしいそれをジッと眺めている神田。
そんな神田を他所に、「じゃあね」と言って微笑んだリナリーは、くるりと踵を返して歩いて行ってしまった。

「バレンタイン…」

残された神田は、鍛錬場のど真ん中でひとり、呟いた。
色恋沙汰におよそ縁遠い神田は、その日を意識した事が殆ど無い。それこそ今みたいに、リナリーから可愛らしい包みを受け取って初めて気付くのが定番で、先程のやりとりもある意味毎年恒例になっている。
その事自体は別に構わなかった。知ったところで神田が何かをするわけではないのだから。

…去年までならば。

今年の神田は、少しばかり事情が違った。
色恋沙汰におよそ縁遠かった筈の神田に、恋人が出来ていたからだ。
口にこそ出さないものの、愛し恋し君であるその恋人に、恋人達にとって重要視されているらしいバレンタインという日に、自分は何もプレゼントを渡さなくて良いものだろうかと、神田は頭を悩ませる。
仮に何か渡すにしても既に当日を迎えてしまっているから、凝った物は到底無理だ。かといって、何も渡さないというのも…。

「どうすっかな…」
「何をだい?」
「っ!!?なっ、コ、コムイっ!?」

突然耳に届いた第三者の声に神田は数センチ飛び上がった。
振り向けばそこには、やたらと嬉しそうな顔をしたコムイの姿。

「何か困り事かい?神田くん」
「て、め…、いきなり沸いてくんなよっ!」
「いきなりって、何度も呼んだよ?なのに気付いてくれないから」
「え…」

知らされた事実に、しばし呆然としてしまう神田。そんな神田を他所に、コムイはニコニコと何かを差し出した。

「ね、神田くんっ。見てよこれ」

コムイの手には、少し大人びた印象にラッピングされた包みがある。

「これさ、リナリーがボクにくれたんだよ。「兄さんいつもありがとう」って。ボクってば世界一幸せな兄だよねー」

顔中で喜びを表現するコムイの様子に、神田は今年もか…と内心で溜め息を吐いた。
コムイの「リナリーからチョコレート貰った」自慢は教団内では既に恒例になっている。
教団内の馴染みの人間を捕まえて、自慢して回るのだ。
任務に出て不在の者にはゴーレムを使い、ひとり残らず。
リナリーは教団内でそれなりに親しい人間には一通りチョコレートを渡しているので、コムイが自慢して回る人間の大半は、自分も貰いましたよとは言えずに只、「良かったですね」と話を合わせていた。

「そりゃ良かったな」
「うん。ボク幸せっ」

神田も例外ではなく適当に相槌を打つのだが、別にコムイに気を使っているわけでは無く、単に言うのが面倒なだけだったりする。
幸い、神田の手の中の可愛らしい包みには気付いていないようだ。


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