R×Y

毛布+恋人=キスマーク?
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リーバーが自室で異臭騒ぎを起こした。

あいつは時々、自室でよくわからない実験をしている。それはリーバーだけじゃなく科学班の他のメンバーもなんだが、ラボだけじゃ物足りないのか?あいつらは。
1度リーバーを咎めたら、「神田が自室で竹刀振り回すのと似たようなもんだよ」と笑って返された。
なんで知ってんだ、俺が夜な夜な竹刀振り回してる事。

それはともかく、珍しく早めに仕事を終えて自室に戻ったリーバーは、シャワーを済ませた後いそいそと怪しい薬品の並ぶデスクに向かい、実験を始めた。
貴重な休みなんだからもっと有効に使えと言いたいが、本人としては充分有効らしい。
ったく、これだから研究バカは…。

で、その結果。
薬品の調合が何やらマズかったらしく、フラスコから異臭が漂い始め。それは瞬く間に有毒なガスへと変化し、室内へと充満した。
一時は居住区内で警報が鳴る程の騒ぎになったが、幸か不幸かガスはリーバーの部屋だけに留まり室外に出る事は無かった。
なのでリーバー本人だけがガスが無くなるまでの間、他の部屋に避難すれば良かったわけで。

そこまでは別に問題無かった。怪我人も出ずに済んだんだから。

ただひとつ困ったのは…リーバーが今夜の宿に選んだのが、俺の部屋だという事だった―――。



「じゃあ、今夜は神田の部屋に泊まらせてもらおうかな」

リーバーがそう言った時、俺は断ろうかと思った。だけど大型犬が困ったようなあの顔で、「ダメか?」なんて聞かれて。俺はつい、「別に…ダメとは言ってない」と返してしまった。

その瞬間、リーバーが来る事は決定事項になり。

そして…今に至る。

「ふー。神田、シャワーありがとな」
「…ああ」

部屋に招き入れたリーバーがまず要求したのはシャワーだった。
全身を妙なガスの匂いに包まれていたのだから無理も無い。
シャワーから出てきたリーバーは、匂いから解放された為か酷く安心した表情をしていた。

「悪いな、着替えまで借りちまって」
「別に…」

着の身着のままで自室を出てきたリーバーは当然替えの服なんて持ってきていないから、俺のを貸すしか道はない。
リーバーの体型でも着られそうな寝間着を引っ張り出して、洗濯されて返ってきたばかりのタオルと一緒にリーバーに押し付けたのだ。
そして今、それを身につけて出てきたリーバーは、予想通りの…何て言うかその、つんつるてん…だった。

そもそも俺の持っている寝間着の数なんて限られている。
今リーバーが着ているスウェットと、チャイナ風のデザインの上下、それから浴衣。
浴衣は着方がわからないだろうし、チャイナ風のは今俺が着ているしで選択肢は比較的ゆとりのあるスウェットしか無かったのだが。
…それにしても見事につんつるてんだ。腹が立つくらいに。
リーバーといいコムイといい、インテリの癖になんでそんなに背が高いんだ?いっそ分けろ、俺に。

「神田の部屋のシャワーって、俺の部屋のと違うんだな」
「?」

大股でのんびりと歩いてきたリーバーは、俺があぐらをかいて座っているベッドに背を預けるようにして、床にゆっくり腰を下ろした。
別にベッドに座っても構わないと言いかけて、止める。隣に座られたらきっと、緊張してまともに会話なんか出来ないだろうから。

「コックとかさ、デザインが違うんだよ。しかも俺の部屋のと逆でさ、お湯だと思って捻った方から水が出てきてビックリしちゃったよ」

そういえばリーバーがシャワーに入ってすぐ、「うひっ!」みたいな変な声が聞こえてた様な気がする。

「この時期に頭から水かぶるのは流石にキツ…へくしっ!」
「…お前、ちゃんと温まったのか?」
「ん?多分」
「多分って何だよ。…ってお前、髪ちゃんと拭けよ」

手を伸ばしてリーバーの髪に触れてみると、ひどく冷たかった。この部屋は大して暖かくもないし、このままだと風邪を引くかもしれない。

「ほら」

リーバーの肩にかかったタオルを引っ張り、髪を拭いてやる。リーバーの後ろで俺だけがベッドに上がった今の状態は、それに最適だった。
いつも立っているリーバーの髪が、濡れている今は少し下がっていて、それだけで随分と印象が違う。若く見えると言うか、幼く見えると言うか。
けどそんな風に思っている事を俺がわざわざ口に出す筈も無く、ただ黙々と髪を拭き続けた。

「そういえばさ」

大人しく髪を拭かれていたリーバーが、ポツリと口を開く。

「前にも神田に髪拭いてもらった事あったよな」

そういえば、そんな事もあっただろうか。
でも、あの時はまだ…。


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