R×Y

ワサビとパイと科学薬品
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リーバーと2回、キスをした。

けどアイツは好きだとか付き合おうだとか、その手の事は言ってこなかったし、俺も何も言わなかった。
だから表面上は、今までと何も変わらなかった―――。


「おーい、ユーウー!」

食堂で好物の蕎麦を食っていた俺に聞こえてきた、馬鹿兎、もといラビの陽気な声。
一応視線を向けてみると、ラビがいつものヘラヘラ笑いを浮かべながら近付いてくるのが見えた。
それはまあどうでも良かったんだが、問題はそのすぐ後ろにリーバーがついて来ていた事だ。
たった今、思考を独占していたヤツが目の前に現れて、俺は僅かに動揺していた。

「どしたんさユウ?んな怖い顔しちゃって」
「あ?」

動揺を隠す為に俺がした事。それは眉間のシワを3割増にする事だった。
基本仏頂面で過ごしているからか常に機嫌が悪いと思われているが、実際はそんな事は無い。俺にだって機嫌がいい時くらいある。

…たまに。だが。

今だって好物の蕎麦を食っていたとこで蕎麦はいつも通り美味いから、どちらかといえば機嫌はいい方だった。

が。

3割増の仏頂面からは、とてもそうは思えなかったらしい。
ラビも、リーバーも。

「神田、どっか痛いのか?」
「……痛くねえ」
「あっ、わかった!ワサビが効きすぎ…んがっ!?」

横で検討違いな事を嬉しそうにほざいているラビの口に、少し残っていたワサビを突っ込んでやった。
数秒の間の後、顔を真っ赤にしてムセて、「み、水ーーー!!」と叫びながら走っていくラビ。ざまあみろ。

「あーあ。いじめるなよ、神田」
「……」

小さくなったラビの背中を見てそう言いながら、俺の隣に座るリーバー。

「あ、隣いいか?」
「……もう座ってんじゃねーか」

拒否する理由も見当たらなかったのでそう返すと、リーバーは「それもそうかー」なんて笑いながら、ハンバーガーにかぶりついている。…でけぇクチ。モヤシほどじゃねぇけど。

「神田、ほんっと蕎麦好きだよなぁ。たまには違うの食わないのか?」
「ハンバーガーばっか食ってるヤツに言われたくねぇ」
「え、だってこれ、野菜も肉も入ってるぞ?バランス的には問題無いだろ?」
「俺の天ざるの天ぷらだって野菜だ」

リーバーとのこんなやり取りは嫌いじゃない。ラビやモヤシが相手だとイライラするのに、リーバーなら平気だ。何故なのかは考えない。ごちゃごちゃ考えるのは好きじゃねぇんだよ、俺は。

「食うか?」
「いらん」

このやり取りを、リーバーとは席が近くなる度にしているような気がするなと、ぼんやり考える。するとふいに、リーバーが俺の蕎麦を指さしてきた。

「美味いのか?それ」
「あ?」
「や、蕎麦。俺食った事無いからさ」
「……食ってみるか?」
「へ?」

俺の返事が意外だったのか、クチをぽっかり開けてこっちを見るリーバー。何か変な事言ったか、俺。

「…いらねえならいい」
「あ、や、いる!食う!食います!」

慌てて返事をよこすリーバーに箸を渡してやる。
けどリーバーは箸の持ち方がわからないらしく戸惑っていた。箸を使う習慣なんて無いんだろうから無理もないが。

「貸せ」
「え」

まごまごしているリーバーから箸を奪う。
蕎麦を適当につかんでツユにつけ、リーバーの口元に運ぶと、ヤツはキョトンとして俺と蕎麦とを交互に見た。

「…早く食え」
「え?あ、ああ…」

ようやく状況が理解出来たのか、リーバーが口を開ける。
そこに蕎麦を突っ込んでやった瞬間、リーバーが固まった。

「か」
「リーバー?」
「か……」
「リ…」
「辛ーーッ!!」
「あっ、おい!?」

叫びながら立ち上がったリーバーは、食堂の外へと走っていってしまった。
………そういえば、ハンバーガーのマスタードはいつも抜いてもらってたな、アイツ。

俺はワサビがたっぷり入った蕎麦を再び食しながら、ほんの少しだけ罪悪感を感じた。
辛いものが苦手なリーバーには、この味は酷だったのかもしれない(ラビはどうでもいいが)


結局、食事を終えてもリーバーは戻ってこなくて、流石に気になった俺は探してみる事にした。



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