R×Y

セカンドキス
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血(てつ)の味のキスの後、神田は俺を避けるようになった――。




「リーバーさん、こっちの書類まとめ終わりましたよ」
「お、サンキューな、アレン」

コムリンΩ(オメガ)騒動から数日、教団は比較的平和だった。
数人のエクソシストが新たに見つかったイノセンスを回収するべく出払ってはいたが、今のところアクマ達の襲撃の報告も無く、俺を初めとした科学班の面々は研究やら分析やらに精を出している。
教団に残っているエクソシスト達は修行以外は特にする事もないので、各自が好きなように過ごしているのだが、暇をもて余しているのかアレンとラビは科学班の雑用を手伝ってくれていた。

「ジョニー、ファイル見付けてきたさー」
「あっ、このファイル昨日から探してたんだよー。ありがとーラビ」
「リーバーさん、次は何をすればいいですか?」
「ん?ああ、もういいよ。そろそろ昼だし、食堂で飯食わないか?」
「大賛成です」
「アレンはホンット食うのが好きさー」

食堂という単語を発した途端に目を輝かせて歩き出すアレンと、その後ろをカラカラと笑いながらついていくラビ。
俺はジョニーに食堂に行く事を告げてから、ふたりに続いてラボを後にした。


「えーと僕はシーフードドリアとフライドチキンにカルボナーラにクラブサンド、あと照り焼きハンバーグとオムライスとデザートにシュークリームとみたらし団子でお願いします」
「…相変わらず食うな、アレン…」
「聞いてるだけで腹一杯になるさ…」

頼んだメニューを一足早く受け取った俺は、席を探す為に食堂内を見渡す。
ちょうど昼時にぶつかったせいか混雑していたが、真ん中あたりに三席空いている場所を見付けて、そこへと向かった。
すると。

「!」
「あ」

席まで来て初めて気が付いたのだが、すぐ隣の席には神田が座っていた。
その更に隣に座っているファインダーがやたらと大柄だった為に見えなかったらしい。

「よ、神田」

神田はここ数日、俺を避けている節がある。理由を聞くのに良い機会かもしれない。

と、思いきや。
神田は突然席を立った。

「神田?」
「……」

俺の呼び掛けには答えず、こちらを見ようともせず、歩いて行ってしまう神田。
好物の蕎麦だってまだ残っているというのに。

「どしたんさ?リーバー」
「悪い、先に食っててくれ」
「え、リーバーさ…」

入れ違いにやって来たラビとアレンにそれだけ告げて、神田の後を追う。
食堂の前の廊下は人が多かったが、神田は目立つからすぐ見つかった。

「神田!」
「!」

少し離れた位置から声をかけると神田は振り向いてくれたのだが。

「ちょ、おい!?」

俺と視線が合った途端、神田は走って行ってしまった。

「…こりゃマジで避けられてんな…」

そうだろうとは思っていたが、これで決定的だ。
原因は…この前のキス、か。やっぱり。

とにかく、避けられたままなんてのは御免だと、すぐに神田の後を追った。

廊下の人通りは決して少なくない。神田は時々他人と肩をぶつけながらも止まる事無く走っていく。
後を追う俺は、神田とぶつかった面々がぽかんと口を開けて過ぎて行く背中をみつめているその横を、やはり走り抜けて行く。ぶつからないように気をつけながら。

けど、脇目もふらずに走るのと、注意を払いながら走るのとでは明らかな差がある。
更には常に死線に立ち続けるエクソシストと、常に書類の山と向き合うばかりの研究員とでは、フットワークも全然違う。

神田の姿は、あっという間に見えなくなってしまった。

「は、情けね…」

神田が消えた廊下の奥を眺めながら、バリバリと頭をかく。
見失ってしまった不甲斐なさから溜め息がこぼれたが、俺はふと、ある事に気が付いた。

「ここって…」

神田が消えた位置の少し手前には階段がある。上に上がれば科学班のラボやら、団員達の居住区やらがあり、下に降りればロビーやら地下水路やらがある。
けど、俺は神田が階段の横をすり抜けていくのを見た。
あの先には裏口があって、そこを進めばあるのは確か…。

「森…か?」





俺がここに足を踏み入れたのは初めてだった。
四六時中研究に没頭している俺に、ただ木々が生い茂るこの場所に用がある筈もない。

「……」

初めて立ち入る事には躊躇いは無かった。
けど、神田が間違い無くここにいるのだと思うと緊張してしまう。

神田は今、どんな気持ちでいるんだろうかと、そればかりが頭を過る。

生い茂る草を踏みしめて、一歩一歩進んでいくと、少し離れた木々の向こうにさっきまで追っていた後ろ姿を見つけた。

「神…、」

緊張を押し殺してゆっくりと進みながら、その名前を呼びかけて。

そして俺は…死にかけた。



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