R×Y

ファーストキスは血(てつ)の味
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「ウォーカー、少しは野菜も摂取しなさいと何度言わせるんです」
「リンクだって毎食ケーキばっかりじゃないですか。たまには肉とか魚とか食べたらどうですか」
「お前ら、今日も朝から重いさ…」

ある朝の、教団内の風景。
ノアの襲撃も無く平和な時期の日常は、いつも大体似たようなものなんだけど。

この日は、少しだけ違っていた――。


「おーいジョニー、ここの記入抜けてるぞ」
「くかー…」
「班長、ジョニー寝ちゃってまーす」
「起こせ。つーか室長どこだ?ハンコ必要な書類が山程あるってのに…」

相変わらず煮詰まった感満載の科学班。
30センチを裕に超える書類を両手に抱えた俺は、いる筈の場所にいなかったコムイ室長を探してラボ内を見渡した。
急ぎでなければデスクに置いてきても良かったんだが、午前中に判を貰わなくちゃならない書類だったから、そうもいかない。
置いてきてしまえば、その後に他の班員達が持って行く書類の山に埋もれて、処理が遅れるのは目に見えているからだ。

「おいリーバー、コーヒーだぞ」
「え、神田?」

名前を呼ばれて後ろを振り返った俺は、目の前の光景に目を丸くした。神田が班員達のコーヒーを乗せたトレイを持って立っていたのだ。

「どうしたんだ?神田がコーヒー運んでくるなんて」
「リナリーに押し付けられた」
「リナリーに?」
「ラボの前の廊下で会った。すれ違おうとしたら何か悲鳴が聞こえて、俺にトレイ押し付けて走って行っちまった」
「悲鳴?」
「多分モヤシだろ。あの悲壮感漂う声は」
「何かあったのか?」
「知らねぇ。あったとしてもモヤシなら自力で何とかするだろ。おい、それよりサッサとコレ受け取れよ」
「あ、ああ。ちょっと待ってな、今この書類置くから」

一体何が起こったのか、非常に気になるところではある。けど、これ以上神田にトレイを持たせたままにしておくと、最悪、放り投げてしまいかねない。
取り敢えず受け取ってしまおうと、書類を手近なデスクに置いた次の瞬間、地面が揺れた。

「!?」
「な、なんだ?」

ズシン、ズシン、と震える地面。
何事かと入り口から覗き見た物体に、俺と神田は同時に「げ」と声を上げた。

「「コムリン!?」」

我が物顔で廊下を闊歩しているのは、数々の迷惑行為を生んできたコムイ室長作のロボット、コムリンだったのだ。

「コムイの奴、また作りやがったのか!?」
「あっ、アレン!リナリーも!大丈夫か!?」

大きさはUと同等か少し大きい位のコムリンの口?には、親猫に運ばれる子猫のような状態でくわえられているアレンの姿。
右腕?には足首を捕まれ、逆さ吊りにされたリナリーがいる(スカートじゃなかったのが救いか)

どうやら2人共、気を失っているようだが…。

「ちっ。ブッた斬るか…」

目の前の惨状に舌打ちをした神田は床にトレイを置くと(放り投げなかったのは奇跡かもしれない)、滑らかな動作で六幻に手をかける。修理中でない限り、エクソシストは武器を肌身から離す事は無い。特に神田は。

「六幻…抜と」
『エクソシストハッケン、ホゴシマス』
「!?」
「うわっ!」
「リーバー!」

一瞬の出来事だった。
神田が抜刀するよりも早くコムリンの左腕が伸び、神田を捕らえようとした。神田は紙一重でそれをかわしたのだが、代わりにすぐ後ろにいた俺が捕まってしまったのだ。
残念な事に俺は、神田のように素早く無い。ちょっとせつない。

しかし。

『エクソシスト、ホゴ。カガクハンハ、タイショウガイ』
「わっ!」
「リーバー!」

どうやらこのコムリンはエクソシストのみを捕えるようプログラムされているらしく、俺はすぐに解放された。高い位置から落とされ、腰をしこたま打ってしまったが。

「いててて…」
「大丈夫か?リーバー」

神田の手を借り、どうにか立ち上がる。
だが、魔の手は再び襲いかかってきた。


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