A×L

□ハロウィン2010〜アレリンver.〜
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「ウォーカー?」

リンクはその姿をひと目見た瞬間、自分の視力はどうかしてしまったのだろうかと、本気で考えた。
僅か、一瞬だけではあったが。

そしてすぐに、ああ、またあの悪戯好きの室長の仕業かと、すぐに気がついた。

今、リンクの目の前に立っているアレンは、何故か灰色の耳と尻尾を生やしていたのだ。



ハロウィン2010〜アレンとリンク編〜



「何してるんですか、キミは」
「リンクぅ…」

リンクがため息と同時に問いかけると、アレンは何とも情けない声を上げた。
それだけを聞いたら彼は、本当に死線を戦い抜いて来た悪魔払師で、かつ14番目などと言う大層な肩書きの持ち主なのだろうかと、疑いたくなってしまう。

「リンクが洗面所に行ってる間にドアがノックされて…」

タイが少し曲がっていますよと、アレンに指摘されたリンクは、ほんの数分、席をはずしていた。

「開けたらコムイさんがいて…なんかいきなり薬品かけられちゃって…」

気がついたら、こんな格好になっていたんです。とアレンは肩を落とした。

「キミは少し無防備すぎる面がありますよ、ウォーカー。来客の際はまず相手が誰であるか確認をした上でドアを開けるべきではありませんか?」
「だって…」
「だって、じゃありません。現に無防備にドアを開けたせいで、ロクな目にあってないでしょう?」
「…う」
「ただでさえキミは微妙な立場にいるんです。少しは警戒心を身に着けていただかないと」
「……」
「わかりましたか?」
「…はい」
「よろしい」

チェアに腰を下ろしたアレンは、リンクに諭されてガックリとうなだれている。
少しだけ距離をおいたまま、リンクはその姿をじっと眺めてみた。

大きな耳と、ふさふさとした尻尾。
灰色の毛並みは、よく見れば僅かに銀が混ざっているようで、窓から入る日差しを浴びて光っている。
さすがに牙までは生えていないようだが、白髪で小柄なアレンは、さながら若い狼を彷彿とさせる出で立ちだった。

「似合ってますよ」

ポツリ、と。
無意識の内に口から出た台詞を、アレンも、リンク自身も、理解するまでに数秒を要した。

「……へ?」
「…え」
「リンク…いま、なんて?」
「…っ!な、何も言ってません!」
「ええ!?だって僕ちゃんと聞こえましたよ?リンクが似合ってますよって言ったの!」
「げ、幻聴です!」
「そんなはっきり聞こえる幻聴とかないでしょ!?」
「し、知りませんっ」
「なんでですか?僕、すっごく嬉しいのに」
「え?」

気付けばアレンは立ち上がっていて、リンクの目の前に来ていた。
手を前に出せばすぐに触れられる距離に。

「ウォーカー?」
「嬉しいです、リンクが似合うって言ってくれて」
「っ」
「リンクが気に入ってくれたんなら、こんな格好も悪くないですね」

ふふ、とアレンは笑って、リンクの頬に触れた。

「ウォーカー?」
「リンクなら、魔女とかかなあ?」
「はい?」

何の話かと、リンクが首を傾げる。
頬に触れた事を咎めようとしたタイミングで話を振られたせいで、リンクはその事を失念しかけた。

「さっきコムイさんに言われて気が付いたんですけど、今日ってハロウィンでしょう?」

そう言われてみればそうだったと、リンクはちょうどアレンの後ろの壁にかけてあるカレンダーを見て思った。
アレンの監視役は決して楽な職では無く、イベント事に疎くなりがちだが、そんなリンクとは逆に、教団本部はイベント事が大好きなのだ。

主に室長が元凶である事は誰の目にも明らかだが、暗くなってしまいがちな団員達の気分転換に役立っている事は確かだからか、中央からもこれといったお咎めは無かった。度を越さなければ、だが。

実際には度なんて遥かに越えまくっているのが現状だと、この時の中央庁はまだ知らずにいたのだ。

「ハロウィンが何か?」
「僕がこんな格好なのって、ハロウィンだかららしいんです」
「…仮装、という事ですか?」
「うん。コムイさん、今日は皆に仮装させて過ごさせるつもりみたいで」
「皆に?…って、もしかして…」
「さっきはたまたまラビが通りかかって追いかけて行っちゃったけど、リンクにもさせるつもりみたいですよ?仮装」
「……仮装」
「魔女とか似合いそうですよね、リンク」
「魔女…」
「なんかラベル貼ってなくて何が当たるかわからないとか言ってましたけど…ってリンク?どこ行くんですか?」

突如、踵を返しドアに向かって歩きだしたリンクを、アレンは慌てて追った。
頬に触れたりなんかしてちょっといい雰囲気かも。なんて思ってた矢先で、反応は遅れてしまったが。

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