A×L
□start
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ぽと、と音がした。
あまり聞きなれない音だ。
「ウォーカー?」
振り向いてみるとアレンがデスクに突っ伏していて、リンクは慌てて駆け寄った。
「ウォーカー?ウォ…」
肩に手をかけて顔を覗き込んだリンクは、何事かと張っていた緊張が一気に抜けるのを感じて、深く溜め息を吐いた。
「…寝てしまったんですか」
驚かせないでください、と呟いて、リンクは改めてアレンの顔を見る。
年相応の、あどけない寝顔がそこにあった。
「疲れているんですね…」
アクマによる本部襲撃から暫く経ち、傷も癒え自室に戻ったアレンだったが、入院中はあまり眠れなかったようだった。
失った仲間。14番目。自身への疑いの目。
抱え込んだ物の大きさは、僅か15歳の少年には辛いものであるに違いない。
初めて会った時よりも少し痩せたような気がするのは、きっと気のせいではないのだろう。
「キミも大変ですね、ウォーカー…」
リンクは小さく呟くと、ゆっくりアレンを抱え上げた。
起こしてしまわないように、そっと。
そして、アレンのベッドにゆっくりと下ろして、毛布をかけようとして、止まる。
眼に入ったのは、上まできっちりと締められたシャツのボタンと、タイ。
このままだと苦しいだろうと考えたリンクは、アレンのタイに手をかけた。
スルリといとも簡単にほどけたタイを枕の横に置き、次いでボタンに手を伸ばす。
プツ、とひとつ目のボタンを外したと同時に、アレンが身動ぎをした。
「う…ン」
「っ」
首がむず痒かったのか手を伸ばしてきたアレンは、ちょうどそこに位置していたリンクの手に触れて。
そして何故かそのままギュッと握ると、またスヤスヤと寝息を立て初めてしまったのだ。
「ウ、ウォーカー?」
予想外の行動に戸惑うリンク。
しかしリンクが戸惑ったのはそれだけでは無かった。
「…?」
思わずリンクは、アレンに握られていない方の手で、自分の頬に触れる。
頬が、明らかに熱を持っていた。
おまけに心拍までがいつもよりずっと速い。
「…何…で」
自分の身に何が起こっているのか、リンクは良くわからなかった。
「…ウォーカー?」
手を離してくれませんか、などと言ってみても、夢の中の住人となったアレンに聞こえる筈もない。
こうしている間も高まりを治める気配の無い心拍と、熱を持った頬。
良案の浮かばないリンクは、いっそこのままアレンの隣で寝てしまおうかと考えた。
手を握られていてはどうせ動けないし、カフェテーブルまでは少し距離があるから、書類の記入すら出来ない。
ならばここ数日不足している睡眠を取るのが、今出来る最良の策であるに違いない。
眼が覚めた時にはきっと、心拍も頬の熱も治まっているだろう。
そんな結論に至ったリンクは、自力でアレンの手を解こうとしない自分の真意には、全く気付いていなかった。
そしてリンクは腹をくくり、もそもそとベッドに潜り込む。
しかし、アレンもリンクも比較的小柄ではあるものの、れっきとした男なワケで。
シングルサイズのベッドを共にするのは流石に少し窮屈で、身体が触れてしまう事は避けられなかった。
「狭…」
ベッドからの転落を避ける為にはアレンに密着するしか道が無いリンクは、少々思案しつつもぺったりとアレンにくっついた。
別に嫌な気もしないから良いだろうと、彼にしては随分と楽天的な考えで。
元々リンクはアレンの事は嫌いでは無かった。
最初の数日こそ扱いに困ったものの、真面目一辺倒のリンクにとっては、自由奔放なクロスの元で長く過ごしてきたアレンの言動や行動は、酷く新鮮な物だったのだ。
「お休みなさい、ウォーカー」
視線だけをアレンの方に向けてそう告げたリンクは、ゆっくりと眼を閉じ―――。
「!?」
リンクは閉じかけた眼を、これ以上ない位に見開いた。
寝返りを打ったアレンが、突然抱きついてきたのだ。
「ウ、ウォーカー?」
あまりの出来事に、石のように固まってしまうリンク。
対してアレンはというと、何事も無いかの様に眠り続けている。
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