R×Y

□clap集
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リバ神・小ネタ2


〜神田ユウ編〜


何故急にそんな事を思ってしまったのか、自分でもわからない。

ただ、ふと思ってしまった。

一度思ってしまったものを、無かった事には出来ない。

目の前にその対象が居たら、尚更―――。




(キスしてえ…)

そう思ってしまった瞬間、俺は自分の頭がどうかしてしまったんじゃないかと本気で考えた。
だけど、散々頭を横に振ってから再びリーバーを視界に入れた俺は、また同じ事を思っていて。
この脳内状況をどう始末したら良いのかと考え始めた。

そもそもコイツはどうしていつも、自室に帰らずに研究室のソファで眠るのか。
他の班員達は皆、室長であるコムイでさえ自室に戻っているというのに。
自室に戻る気力すら無いほど疲れているんだろうか。
視界に映る寝顔はいつもと変わりないリーバーだけど、少しやつれている様にも見える。
また、きちんとした食事を摂らずに研究に明け暮れていたのかもしれない。

「あんまり無茶すんなよな…」

ポツリと呟いてみても肝心のリーバーは夢の中で、スウスウと穏やかな寝息を立てている。

そこで俺は、横たわった身体にかけられた白衣に気付いた。
最初はリーバー本人の物かと思ったけど、よく見ればリーバーは白衣を着たままで寝ていたのだ。
つまりかけられた白衣はリーバーの物ではないらしい。
班員の誰かがかけたんだろうけど、俺はそれが誰なのかがやたらと気になった。
さっき廊下で会ったジョニーやロブやジジ辺りは白衣を着ていた気がするから、それ以外の奴だろう。
ひょっとしたらコムイだろうか?いやそれにしては白衣のサイズが少し小さい感じだ。
このサイズならリーバーより背の低い奴だろう。多分俺くらいの。
科学班で俺に近い身長の奴って、誰か居たっけな…って、何をそんなに気にしてるんだ俺は。白衣くらい何だってんだ。

俺は吹っ切るように自分が着ていたコートを上からかけた。誰かの白衣が見えなくなるように。誰かの白衣の事を考えなくて済むように。

けど、その行動がもう間違いだった。
コートをかける為に傍に寄った事が、今の俺にとっては致命的だった。

「っ」

近くなったリーバーの顔。
手はコートをかけた位置、緩められたネクタイの結び目の辺りで止まったまま。ネクタイに触れるか触れないかの、ギリギリの。

その手が、一度だけピクリと揺れた。俺の意思とは関係無く、俺の心の動揺を映すように。

そして俺の手は、眠り続けるリーバーの頬に、おそるおそる触れた。

(キスしてえ…)

俺の頭の中にはもうそれしか無かった。

ソファの横に膝をついて、ゆっくりゆっくりと顔を近付けていく。
吐息がかかる距離に来るともう、眼なんて開けていられなかった。

静かに触れて。ほんの少しだけ押し付けて。
リーバーの唇はサラリとしていて心地良かったけど、でも何か物足りない。

唇を離してから俺は、その原因に思い至った。
リーバーからのキスじゃないからだ。
いつもキスはリーバーからで、俺からなんてした事が無い。
しかもリーバーは今は夢の中で、何の反応も示さない。
だから物足りないんだ。

「…寝てんなよ、馬鹿リーバー…」

今すぐ起きて、抱き締めて、キスして欲しい。
でもリーバーは今、こんなにも穏やかに眠っている。それを邪魔したくは無い。

だから今はせめてこうして寝顔を眺めていようと、俺はソファの端に肘をついて、手に顎をのせた。

「…起きたらそっちからしろよな…」

ポツリと口をついて出た台詞。どうせ誰も聞いてないんだから構いやしない。
こんな時でもなきゃ俺は、そんな本音を口にする事さえ出来ないんだから。

そのまま穴が空くほど見続けたけどリーバーは起きる気配を見せなくて。
気付けばフワフワとした睡魔に襲われていた俺は、リーバーが起きるのを待ちきれず、ゆっくりとまぶたを下ろした。


つい乗せてしまった俺の頭の重みでリーバーが眼を覚ますまで、後3分―――。


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