novel
□結婚記念日
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ぐらぐらと体を乱暴に揺さぶられ、仕方なく重い目蓋を上げた。目を開いてすぐに視界に入ったのは、エクセラだった。
「やっと起きた?」
「……これだけ揺らされればな」
「ふふっ…おはよう」
そう言うと、促されるでもなくエクセラから俺に口付けてきた。
「どうした?やけに上機嫌だな」
「当たり前でしょ?だって、今日は私達の結婚記念日だもの」
「ああ…そうだな」
今日は、3月5日。俺とエクセラが一緒になった日だ。1年という歳月が、あっという間だったように感じる。
「…それなのに貴方は仕事なのよね」
「すまんな。手術が午前中に入っててな」
頬を撫でてやれば、エクセラはうっとりと目を細めた。
「大丈夫よ。私も少し出掛けるから」
「終わったら、すぐに帰る」
「ええ、待ってるわ。…ほら、早く着替えて?朝食が冷めちゃうわ」
「分かっている」
返事をすればエクセラは寝室を後にした。
手早く着替えを済ませ、ネクタイを締めずに手に持ったままダイニングへ向かった。テーブルにつき、エクセラと朝食をとる。朝食を済ませるとエクセラは俺の服装に疑問を持ったらしく、口を開いた。
「あら?貴方、ネクタイはどうしたの?」
そう問い掛けたエクセラに無言でネクタイを手渡した。暫くネクタイと俺とを見比べていたが、やがてその意図に気付いたらしく柔らかく微笑んだ。
「もう…仕方ないわね」
溜め息混じりに言うと、ネクタイを結び始める。
「……はい。終わったわ」
「今回は、キスは無いんだな」
「してほしいの?」
「言わねば分からんか?」
「ふふふ…いいわ」
エクセラの両手が俺の頬に添えられ、唇が触れ合った。1度で終わりかと思えば、2度、3度と唇が合わさる。
「………エクセラ?」
「…ん?」
―――ちゅっ。
「………エク…っ」
―――ちゅっ。ちゅっ。
(何回するつもりなんだ…?)
―――ちゅっ。ちゅっ。
「っ…エク、セラ…待っ…っ」
「…ん………」
―――ちゅっ。ちゅっ。ちゅっ。
エクセラからのキスの嵐に、段々と顔に熱が集まってきた。
(……くそっ…)
こんな触れるだけのキスで、不覚にも赤面してしまう自分が情けなくなってくる。
―――ちゅっ…。
「…アルバート?顔が赤いわ」
「………誰のせいだと思ってるんだ…」
「え?私のせい?」
悪びれもせず首を傾げるエクセラが少しばかり憎らしい。
(この…小悪魔がっ……!)
顔を片手で覆えば、エクセラは不思議そうに俺を見た。
「?……あら、もうこんな時間。遅れちゃうわよ?」
「………ああ」
エクセラに促され、火照った顔を冷ましつつ家を後にした。