novel

□出会いは必然的に
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午後6時頃、必然的に混雑する電車内。俺は車を所持していない為、仕方なく電車で通勤し電車で帰宅する。毎日毎日、ストレスが溜まって仕方がない。思わず溜め息が出る。
不意に電車が大きく揺れた。

「―――っ!」

揺れに乗じて、1人の女が俺の方へ倒れ込んできた。咄嗟に吊革を掴んでいない方の手を女の背に回し、その体を支えてやる。ふと、女が顔を上げた。

(……ほう)

女の顔は、日常生活で雑誌やテレビ等でしかお目にかかれないような、美しい顔立ちをしていた。白い肌に薄いグレーの濡れた瞳、ふっくらとした艶やかな唇、その女の全てが俺を誘惑しているようだった。

「あ…ごめんなさい」
「いや」

目が伏せられ、長い睫毛が目元に影を作った。女は密着してしまっている体を離そうと身じろぐが、身動きが取れないらしく小さく溜め息を吐いた。

「あの…身動きが取れなくて。次の駅まで、このままでも…?」
「構わん」

女の目も見ずにそう告げれば、視界の端で女が俯くのが分かった。そして、次の駅に着くと俺は電車を降りた。
改札を抜け、駅を出ると声を掛けられた。振り返ってみれば、先程の女が立っていた。

「これ、落としましたよね?」

女は、俺にパスケースを差し出してきた。

「…ああ、助かる」

それを軽く礼を言って受け取った。

「それじゃあ…」

そう言って、踵を返した女の細い手首を掴んだ。

「何か…?」
「この後は予定でもあるのか」
「え…。いえ、特に予定は…」
「そうか。礼と言っては何だが、飲みに行かないか」

(……何を言っているんだ、俺は)

自分の行動に俺自身が1番驚いている。名前も知らない女を飲みに誘うなど、どうかしている。

「良いんですか…?」
「俺がそうしたいんだ。それと、敬語はいい」
「…じゃあ、是非」

女の了承を得て、行きつけのバーへ向かった。
そこで飲んでいて、女のことで分かったことが幾つかある。女の名はエクセラといい、年は23歳だという。そして、同じマンションに住んでいるらしい。それも驚いたことに部屋は隣同士だ。
エクセラと話していると不思議と、日頃のストレスや疲れが全て消えていくようだ。

(不思議なものだ…)

ふと、腕時計を見れば時刻は7時半。あまり遅くまで付き合わせる訳にも行かず、話もそこそこにバーを出た。
そのまま別れることもなく、2人で同じマンションへと歩き出した。エレベーターで3階まで行き、エクセラは303号室、俺は304号室へ入った。





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