novel

□契約の口付けを
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エクセラは苛立ちを隠せずにいた。
自分には才能がある。それなのに、何故何十もある研究チームの一つだけを自分に預けたのか。理由は分かり切っていた。自分の出身が傍流のギオネ家だから。生まれが傍流、唯それだけの理由で人の風下に立つ。エクセラにとってそれは、屈辱以外の何物でもなかった。
エクセラは18歳の頃にその才能を買われトライセルに身を置いていた。それから2年の歳月が過ぎたが、未だに人の風下に留まっていた。

(どうして私が…ッ!!)

エクセラは、手にしていた研究の資料を握り締めた。

―――コンコン。

不意にエクセラの部屋のドアがノックされた。エクセラは皺の付いた資料をゴミ箱へ捨てると、ドアを開いた。
ドアの向こうには一人の研究員と黒ずくめの長身の男が立っていた。

「…何か?」
「あなたにお客様です」
「客?」
「何でも大事な話があると」

エクセラは研究員と長身の男を交互に見ると、仕方無く長身の男を部屋に招き入れた。

「入って」
「…………」

長身の男は言われるままに、部屋に入った。ドアを閉めたエクセラは、長身の男を改めて見た。
金色の髪、サングラス、上下とも黒で統一された服。そして、手にはジュラルミンケースを持っていた。
エクセラが男を観察していると、男が振り返った。

「…噂には聞いていたが、その美貌は本物らしいな」
「…ッ!!」

男はエクセラの顎を掴み、口を開いた。エクセラは即座にその手を振り払う。2、3歩後退り、男を睨み付ける。

「気安く触らないで!大体、名前ぐらい名乗ったらどうなの!?」
「クク…そうだな。俺は、アルバート・ウェスカーだ」
「一体何の用?」

男――ウェスカーは、エクセラの問いには答えず、ソファに腰掛けるとエクセラに座れ、と促した。
エクセラはウェスカーを警戒しつつも、向かい側に腰を下ろした。そして、エクセラの目の前にウェスカーが持っていたジュラルミンケースが置かれた。

「…これは?」
「開けてみれば分かる」

エクセラはその言葉通りに、ケースを開けた。中には何かのサンプルのようなものが幾つか入っていた。

「これは?何かのサンプルみたいだけど…」
「それらは、全てウイルスのサンプルだ」
「…!」
「お前は今の地位が許せないのだろう?ならば、そのサンプルを使え。お前の才能があれば、生物兵器を強化させることなど容易いことだろう」
「…………」

ウェスカーの言葉を聞いていたエクセラはふと、質問を投げかけた。

「…どうして、貴方はこんな物を持っているの?」
「俺にはある計画がある。その計画にはこのウイルスが必要不可欠だ」
「そんなに大事なものを何故私に?」
「ウイルスは必要不可欠だ…だが、1つ1つの効果は完璧とは言えん。そこで、だ。…お前のその才能が必要になってくる」
「私の、才能?」
「そうだ。お前の才能でウイルスをより強力なものにしてほしい。それに、強化したウイルスがあれば、トライセルの支社長のポストを手に入れることも簡単なことだ。悪い話ではないだろう?」

エクセラはケースに収められたサンプルの1つを手に取り、口元に笑みを浮かべた。

「ふふ…良いわ。その話に乗ってあげる。…1年、半年、いえ1ヶ月よ。それまでに、これをヒントにのし上がるわ」
「ほう?」
「…そうだわ。貴方にもお礼をしなくちゃね?何か欲しい物は有るの?」
「………ではエクセラの唇、はどうだ?」

ウェスカーの言葉にエクセラは目を見開くがすぐにふ、と笑う。

「…駄目じゃないわよ?」
「それは良かった」

ウェスカーはテーブルに手を突いて身を乗り出し、エクセラに口付けた――。







契約の口付けを


(貴方の呪縛はこの日から)





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