novel

□最愛
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私は、ウロボロスの研究を進めていくうちに、怖くなった。アルバートは、ウロボロスが完成すればきっと、私を捨てるだろう。私はそれが怖い。だからせめて、捨てられてしまう前に自分から、アルバートの傍から離れようとした。

―――貴方の傍には居られない。

そう告げると、鳩尾の辺りに強烈な痛みを感じ、気が付けばベッドに寝かされていた。手には手錠がされていた。(それは、すぐに部屋に入ってきたアルバートに外された。)
広い部屋にはシャワールームや冷蔵庫などが完備されており、生活する上で何の問題もない。だが、部屋のドアには鍵がかけられていて、開けることはできない。このドアが開くときは、アルバートが部屋へ来るときだ。
アルバートは私の食事を持って来てくれる。夜は、この部屋のベッドに2人で眠る。時々、体を求められることもある。私は、それを拒むことはできない。

ある日、私は部屋にある電話を手にした。

「……アルバート、少しいいかしら?」
「…ああ」

電話を戻し、暫く待てば、部屋のドアが開かれた。

「早いのね」

ソファから立ち上がり、微笑みかける。

「中庭に行きたいわ」

アルバートに歩み寄る。

「いいでしょう?」
「………いいだろう」

アルバートの了承を得て、クローゼットを開け上着を羽織った。再びアルバートへ近寄り、左手を差し出す。当然のように、薬指にパールのようなものが付いたリングが嵌められた。部屋を出るときに必ず着けるこれは、言わば首輪のようなもの。アルバートから逃げようとすれば、私はこれに殺されることになる。

(…エンゲージリングみたいね)

嵌められたリングを見て、思う。

(本物だったらなんて幸せなのかしら…)

腕を引かれ、部屋を出た。長い通路を進み、鉄のドアを開けば中庭に出た。中庭と呼ぶには広すぎるそこには様々な種類の花が咲き乱れていた。掴まれていた腕が放される。広い中庭を自由に歩き回る。そんな私をアルバートは、鉄のドアに背を預け見つめていた。
硝子越しに青い空を眺めていると、アルバートの携帯が鳴った。すぐにそれを取り出すと、通話ボタンを押し、耳に押し当てる。

「俺だ。…………ああ、分かった」

短い返事をして、携帯をしまう。

「エクセラ」

名を呼ばれる。歩み寄ると戻れ、と言われ手を掴まれた。

「あら、もう?」

中庭を後にし、大人しく後ろを歩けば、不意にアルバートが足を止めた。

「アルバート、どうしたの…?」
「出たいか?」
「え?」
「ここから」

前を向いたままのアルバートの前に立った。

「俺から逃げればいい」

手が放され、リングが外された。

「好きにしろ」

私は一瞬だけ目を見開き、アルバートの脇を静かに通り抜けた。

「…………」

足を止め、振り向いた。

「私は……」

広い背中に抱き付く。

「何処にも行かないわ」









私はもう、貴方から逃げられない。逃げたくないの。愛してるから。
その想いが全部、貴方に伝わればいい―――。






最愛



(貴方の愛を感じられるなら、支配されるのも悪くないわ)





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