novel

□求められる
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今日は久しぶりにシェバの家で飲むことになった。この事をアルバートには言っていない。泊まるつもりはないので大丈夫だろうと思い、そのままにしておいた。
シェバとの会話も弾み、お酒もハイペースになってくる。段々と眠気が襲ってくる。

「エクセラ、顔真っ赤よ?」
「眠くなってきちゃったわ…」
「大丈夫?何だったら、少し寝ていく?」

さすがに飲み過ぎたようで、視界もはっきりしない。こんな状態では無事に家まで帰れたものではない。仕方なくその言葉に甘えることにした。ソファに横たわり目を閉じれば、すぐに意識が薄れていった――。



















「……ん…」

目を覚ましふと窓を見れば、少し明るくなっていた。時間を確かめるためにバッグの中から携帯を取り出して開く。

「…着信……ごじゅっ…け、ん…」

50件近くの着信履歴を見て、顔から血の気が引いた。着信は全て"アルバート"と表示されていた。それも、3分置きだ。最後の着信は2時丁度。携帯の時刻は、4:38。

(…絶対、怒ってるわ…)

とりあえず、これ以上怒らせる訳にもいかない。眠っていたシェバを起こし、帰ることを告げ、家を出て走り出す。高いヒールが走りづらくて何度も躓きながら、漸くアルバートの待つ家に着いた。
玄関の前で深呼吸をし、家の中へ入った。静かに靴を脱ぎ、リビングのドアを開いて、中を覗けばシンと静まり返っていた。眠っているのだろうか。そう思い寝室のドアを開け、入りベッドを見る。

(ずっと待っててくれたのかしら…)

大きなベッドには、アルバートがうつ伏せに横たわっていた。手には開いたままの携帯が握られていた。頬に触れようと手を伸ばすが、すぐに手を引っ込めた。

(……シャワーだけでも浴びようかしら)

きっと今の私からは、アルコールの匂いがすることだろう。それを部屋中にまき散らすのも嫌なので、シャワーを浴びに行く。
シャワーを浴び、すっきりした所で服を着てリビングへ出て行く。そして、リビングのソファに目をやって思わず足を止めた。

「…アルバート」
「…………」

アルバートは、腕を組みソファに腰掛けていた。眉間には深い皺が刻まれている。

「…何処に行っていた」
「シェバの家、よ」
「俺に何の断りもなく、か?」
「ご、ごめんなさい。でも、泊まるつもりなんてなかったから…」

私の言葉にアルバートは深い溜め息を吐いた。

―――ダンッ!

「っ!」

テーブルにアルバートの握られた手が叩きつけられた。肩がびくりと跳ねる。

「俺が、どれだけ心配したか分かってるのか」

ソファから立ち上がったアルバートは、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。私はその場から動けずにいた。気付けば目の前にまで来ていた。アルバートの手が振り上げられる。反射的に目を閉じ、身を硬くした。

「――!」

振り下ろされると思っていた手は、私の背に回り、強く抱き締められた。

「…無事で………安心、した」
「アルバート…」
「連絡ぐらいしろ」
「ごめんなさい…」
「…………もういい」
「……眠いんでしょう?」
「…………」

何も答えないアルバートを引っ張り、寝室に入ってベッドに倒れ込む。すると、アルバートは私を抱き締めたまますぐさま寝息を立て始めた。

(相当眠かったのね…。安心したからかしら?)

小さく笑い安らかな寝顔にキスを落とし、私も目を閉じた―――。





求められる



(こんなに心配してもらえるなら、また無断外泊、してみようかしら?)
(許さん)





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