novel

□俺の傍から離れるな
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ウェスカーside




今日は何だというのだろうか。エクセラは隣で大人しくしていたと思えば、突然腕に己のそれを絡めてきた。豊満な胸が心なしか押しつけられている気がする。不振に思いつつもそのままにしておいた。すると、何やら腹に腕を回し、抱きついてきた。(思わず腹に力がこもった。)そして、仕舞いには膝に頭を預けてきた。膝の辺りからエクセラの視線を感じるが、書類に目をやったままだ。ふいに細い手が頬へ伸びてきて、するすると頬を撫でている。さすがに気になり、下を向く。

「エクセラ…何を…「キスして?」

エクセラの言葉に、少しばかり目を見開いた。

「………だめ?」

甘い声で俺を誘う。
ゆっくりと顔を近付けていけば、閉じられる双眸。唇が触れ、すぐにそれを遠ざけた。

「それだけ?もっとしていたいわ」
「まだ終わらん。待っていろ」

不満げなエクセラにそう言い、再び書類へと目をやる。すると、エクセラは体を起こし、立ち上がった。何処へ行くのかと横目でその姿を追えば、本棚に向うようだ。沢山の本を物色し出す。そして、一冊の本を手に取り、近くにある椅子に腰掛け手にした本を開いて読み始めた。書類へと目を戻す。
今日中に片付けなくてはならない物なのだが、中々思うように作業が進まない。ふと、エクセラを見た。相変わらず熱心に本を呼んでいる。
(………気に入らんな)

こちらをちらりとも見ないエクセラに苛立ってくる。エクセラの視線を離さない、その本を奪ってしまいたい。そして、俺だけをその瞳に映せばいい。この俺以外がエクセラを独占するなど、許せない。

「エクセラ」

名を呼べば、顔を上げて俺を見る。左手で自分の隣を叩けば、本を棚へ戻し歩み寄ってくる。エクセラが隣に腰を下ろしたのを見届けてから、止めていた作業を進めていく。

「…アルバート?何か用があったんじゃないの?」
「いや、そういう訳ではない」
「…そう」

短く言葉を返し、エクセラは黙ってしまう。俺は、黙々と作業を続けた。
暫く俺の横顔を見ていたエクセラが、小さく溜め息を吐き腰を上げようとするのを、細い腕を掴んで制した。

「何処へ行く」

そう言葉にすれば、エクセラは座り直して俺を見つめて答える。

「部屋に戻ろうと思って…」
「何故だ」
「だって…私、邪魔でしょう?」

不安そうに言うエクセラの顎を掴み、顔を固定する。

「…お前は、此処に居ればいい」
「でも…」
「もう一度言う。此処に、居ろ」

有無を言わせない口調で言えば、困ったように笑う。

「ふふふ…仕方ないわね」

俺の肩に頭を預け、体を密着させてくる。

「貴方の傍に、居るわ」

エクセラの言葉に口角を上げ、作業を進めた。










俺の傍から離れるな




(お前が隣に居なければ、何も出来ん)






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