novel

□ねぇ、キスしてなんて言わないから
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―――夢を見た。彼が私を殺す夢。

(…夢…)

ドキドキと胸が高鳴っている。最近は夢なんて見なかったのにどうして今更。それも、アルバートに殺されてしまう夢なんて。いつかは、そうなるのだろうか。私は不安で仕方がないらしい。
ベッドから降り、冷蔵庫を開ける。その中から水を取り出し、一口飲めば少しだけ落ち着くことができた。

(アルバートはもう、眠ってるわよね…)

時計を見ると、時刻は午前三時をとうに過ぎていた。もう真夜中だ。当然彼はベッドで休んでいることだろう。

(眠れそうにないわ…)

あんな夢を見た後にゆっくり眠れる訳もなく。私は溜め息を吐いて、部屋を後にした。














アルバートの部屋の前に立つ。そして、ドアをゆっくりと開ける。部屋に入り、奥のベッドへと歩み寄れば、彼はこちらに背を向けて寝息を立てている。

「……アルバート?」

呼び掛けてみるが当然、返事はない。よく眠っているようだ。ベッドに手をついて、体重を掛ければギシリ、と軋んだ。アルバートの隣に横になり、彼の背中に頬を付ければ、彼の温もりを感じる。この温もりが私を安心させてくれた。
急に眠気が襲ってきた。静かに目を閉じれば、アルバートがこちらに体を反転させた。薄く目を開けば逞しい体が目の前にあった。私の背中に彼の手が回り、引き寄せられる。

(…起きてたのかしら……?)

微睡む頭で考える。

「……アルバート」

彼の名を呼んだ。そのまま、彼の腕に安心しきった私は呆気なく意識を手放した。






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