novel
□NOISE
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「どうしたの?」
思わず問いかけてみたが、何も答えてはくれない。返事の代わりに返ってきたのは、濃厚な口付けだった。アルバートの薄い唇が私のそれを軽くはみ、ぬるりとした温かな舌が口腔を犯していく。歯列をなぞられ体がぞくりと粟立つ。舌を強引に絡め取られ、無意識のうちにそれに応える。
「…っふ…ンん…」
アルバートの強烈すぎる口付けのせいで、まともに息が出来ない。苦しさを訴えるようにアルバートの厚い胸板を押しやれば、ゆっくりと唇が離れていく。飲み込みきれなかった唾液が唇から零れ落ち、顎を伝う。それをアルバートは革手袋の指で拭い去った。
「はっ…アル…バート?」
「…何を悩んでいる?」
忙しく肩で息をする私をソファへと押し倒し、問う。そして、サングラスと革手袋を外し、テーブルへと投げた。現れた骨張った男らしい手で私の頬を優しく撫でる。
サングラスを外され露わになった射抜くような鋭い眼差し。その双眸から目が離せない。
「何をそう悩む必要がある?お前は俺に必要とされて此処に居るんだろう?」
嗚呼、この人には何もかも見透かされてしまう。私はもう、アルバートしか愛せない。
「…俺の世界に住む資格がお前にはあるんだろう?エクセラ」
資格。そう、私にはアルバートの傍にいる資格がある。自分でそう言っておきながら、その事を忘れてしまうなんて。馬鹿馬鹿しいにも程がある。
私は、ゆるゆると頬を撫でるアルバートの手に擦り寄った。
「…そうね」
私がそう口にすれば、アルバートは目を細め口角を僅かに上げて笑い、私の顔にキスの雨を降らせた。
「アルバート」
「…何だ」
「愛しているわ」
「………あぁ」
曖昧な返事にもかかわらず喜んでしまう。そして、私は彼の逞しい手に、唇に全てを委ねた。
NOISE
(それは貴方の優しい嘘)