novel2
□甘く儚く
2ページ/2ページ
さすがに不審に思い始めてきた頃、アルバートの体が少しこちらに向いた。
「……何だ」
「え……何、って…?」
ふと自分の手が、アルバートのそれを握っている事を知った。私は慌てて手を放した。
「っ、ごめんなさい」
「いや…」
謝罪の言葉を述べると、アルバートは研究室の出入口へと向かった。
(…やっぱり、行っちゃうのね)
体調が悪いせいか、部屋に1人取り残されると思うと寂しさが募っていく。
アルバートはというと、出入口の開閉ボタンに手を伸ばしていた。
「…?」
「……………仕方ない」
何かを呟いたと思えばアルバートは、すたすたとこちらへ歩み寄ってきた。そして、私が横になっているソファの隣のソファに腰を降ろした。
「……アルバート?」
すぐ近くにいるアルバートを見つめると、紅い瞳が私を捉えた。
ゆっくり、ゆっくりと近付いてくる整った顔。唇に押し当てられた、柔らかな感触。至近距離で見る、綺麗な紅。
アルバートの顔が離れると、唇にあった感触が無くなった。
「…そんな目で俺を見るな」
「アルバート…」
優しく頬を撫でられ、漸く口付けられたのだと気付いた。
「っアル………っ…」
また、口付けられる。今度は先程よりも長く、濃厚な口付け。ねっとりと絡み合う舌を感じながら、潤んでいく視界でアルバートの紅いそれ眺めた。
「…んっ……は…ア、ル……ふぁ…」
ソファの上に膝立ちになり、広い背に両手を回して、口付けに応えた。
長い長い口付けが終わると、交ざり合った唾液が顎を伝った。アルバートに抱き締められながら、荒く乱された呼吸を整える。
その間、アルバートはずっと私の頭を撫でてくれていた。
「…大人しく部屋で寝ていればいいものを」
「だって、研究を貴方に押し付けて自分だけ休んでるなんて、嫌だもの」
それに、と私は言葉を続けた。
「貴方の、役に立ちたいの」
私の言葉に、アルバートは僅かに目を見開いたが、すぐにふ、と笑みを漏らした。
「…そうか」
「ええ」
「役に立つ前に、その風邪を治す事だな」
「……ええ」
私は苦笑してアルバートの胸板に顔を埋めた。
「……ねぇ?」
「?」
「…此処に居てくれる?」
「それは……」
アルバートは一旦言葉を切り、私の耳元に唇を寄せた。
「…誘っているのか…?」
私は、赤く色付いた顔をより一層赤くした―――。
「んっ、あ…アル…」
「…………」
「あ…アルバート…だ、め…っ」
「何が駄目なんだ?」
「待っ、て…は、ぁ…」
(…頭がくらくらするわ)
「…ほん、とに……あっ」
(もうドキドキして、悪化して、死んじゃいそうだわ……)
-end-