novel2
□甘く儚く
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何だか、今日は体の調子がおかしい。頭はぼーっとするし、大声を出したわけでも無いのに喉がヒリヒリと痛む。
(どうしたのかしら…)
己の体の異変に戸惑いながらも、仕事を休むわけにもいかない。私は大切な研究をしているのだ。それを、体調不良だからといって放棄するなど、出来る筈もない。
ふらふらと長い通路を歩いていたが、視界が揺れ、1人では立っていられなくなり、壁に寄りかかった。ひんやりとした壁に手の平にをぴったりとくっつけて、冷えた手の平を頬に宛てがった。
(冷たい…)
火照った頬にはその冷たさが心地好く、目を閉じた。だが、それがいけなかった。
視界が封じられた私の体は、平行感覚を完全に失い、ふらりと通路側へと倒れていった。
(あ……倒れ、る…)
薄く目を開き、徐々に近付いてくる床を眺めた。
(……あら…?)
床に叩き付けられる筈の体は、何かに包まれ、ピタリと動きを止めた。薄れゆく意識の中で見たものは、真っ黒な闇と金の髪だった―――。
私が目を覚ますと、そこは研究室内のソファの上だった。
ぼーっとする頭で辺りを見回してみると、私の体に白衣が掛けられている事に気付いた。白衣のポケットを見ると、ネームプレートがある。
(…アルバート、ウェスカー……)
その白衣がアルバートの物だと知り、きゅんと胸がときめいた。
(ああ…もしかして、アルバートが私を助けてくれたのかしら…)
アルバートが私を抱き留めてくれて、此処まで連れて来てくれた。しかも、自らの白衣を私に掛けてくれた。そう考えると、嬉しくて仕方がない。
ゆっくりと体を起こせば、するりと白衣が滑り落ちた。ソファから脚を下ろし、立ち上がる。けれど、すぐに視界が歪んで倒れそうになった。
(あ…また……)
いずれ来るであろう衝撃に備え、堅く目を閉じた。
「やれやれ、病人は大人しくしていたらどうだ」
「え……?」
今回も衝撃は無く、ただ何かに包まれただけだった。堅く閉じていた目を開いてみると、何かに包まれたのではなく、逞しい腕に抱き締められているのだと分かった。
視線を上へ上げていくと、鋭い視線とぶつかった。
「……アルバート」
ぽつりと呟くと、突然の浮遊感が私を襲った。驚いてアルバートにしがみ付くと、すぐにソファに降ろされた。
「あ……ありがと…」
「今、倒れられると困るのでな」
アルバートは早口にそう言うと、くるりと踵を返した。
(もう…行っちゃうのかしら…)
そう思っていた。
だが、アルバートは私に背を向けたまま動こうとしない。