novel2

□あの日から貴方と
2ページ/3ページ







ケースをゆっくりと開け、中身を確認した。

「…これは?」
「生物兵器となるウイルスだ。それも、今は存在する筈のないサンプルばかりだ」
「存在する筈のないって…じゃあ、そんなウイルスがどうして此処に?」
「ククク…さあな」

あっけらかんとした返答を気にも留めず、ウイルスのサンプルをまじまじと見つめた。ウイルスの入れられたガラス容器には、TやGなどと書かれたラベルが貼られていた。きっと、それはウイルスの種類なのだろう。
このウイルスを研究していけば必ず上に立つことが出来る、私はそう確信した。

「私、貴方になんてお礼を言ったらいいのかしら」
「クッ…大袈裟だな」
「そんなことないわ。薬を作っただけじゃ足らないもの。他に私に出来ることがあれば言って?」
「お前に出来ること、か…」
「何でも良いの」
「…………そうだな」

男は考える素振りをし、思い付いたようにこちらに顔を向けた。

「では……俺とお前で新たな世界を作る、というのはどうだ…?」
「新たな、世界…?」
「お前はこの世界をつまらないと思ったことはないか?何の進化もせず、ただ飄々と生きているこの世界を…それも、生きているのは進化することを忘れた、唯の人間どもだ。だが、もし…この世界に存在するのが選ばれた者なら、素晴らしい世界が出来上がる。…お前は既に選ばれた者の1人だ。そして、勿論この俺も……」

私は、ただ黙って男の話に耳を傾けていた。私に近付いた真の目的を、知った気がした。
けれど、この男に利用されるとしてもそれでも良いと思った。

「……そうね。貴方となら…新しい世界を生きるのも悪くないわ」

そう呟いて、私はそっと男の肩に頭を預けた。不意に頬に大きな手が添えられた。その手に自らのそれを重ね、目を閉じた。

「…どうだ、俺のいる製薬会社に来るか?」
「そう、したい所だけど……」
「…………」
「私は…トライセルに留まるって、もう決めてるの」
「そうか…」

気まずい沈黙が流れ、私は居ても立ってもいられず、逃げるようにソファから立ち上がる。ひんやりとした窓ガラスに手を付け、下を行く人の群れを眺めた。
すると、背後から音もなく抱き締められた。

「…ならば、俺が此処に来るとしよう」
「だけど、良いの?貴方も研究を…」
「構わん。研究より……お前の方が興味がある。もっとよく調べねばならん」
「ふふふ…変な人ね。でも…私も、貴方をもっとよく知りたいわ」

くるりと体の向きを変え、正面から向き合った。
私はこの先、この人と―――アルバート・ウェスカーと新世界を生きる。そう、心の奥でひっそりと思った―――。




-end-





☆あとがき→


次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ