novel2
□あの日から貴方と
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「薬の出来はどうだ?」
「…………」
飄々とそう問い掛けた男に、私は盛大な溜め息を吐いた。
「貴方はどうしていつもそう、神出鬼没なの」
「ククッ…」
全く、とソファに腰を降ろしながらもう1度溜め息を吐いた。テーブルの上に薬のサンプルが入ったケースを置けば、男は壁に寄りかかっていた体を離し、こちらへ歩み寄って来た。そして、私に断りもなく、隣に腰を降ろす。
(自分勝手と言うか何と言うか、ね)
そんな男の行動を気にしつつも、ケースを開け、サンプルの入れられた注射器を取り出した。
「…どうする?」
「何がだ?」
「もし、失敗してたら…」
「クッ…それは有り得んな」
私の言葉を遮り、男はきっぱりとそう言ってのけた。
「どうして、そう言い切れるの?」
「お前の才能は、この俺が保証しているからな。失敗など有り得ない」
「!……そう」
男のその言葉に胸が熱くなるのを気付いていたが、気のせいだと自らに思い込ませた。
不意に、私の目の前に1本の腕が差し出された。
「…?」
「やるかやらないかは、お前に任せる」
注射器を持ち、筋肉質な腕を取った。
「悩む必要なんて無いわ」
私は、躊躇いもせず注射針を刺した。ゆっくりと薬を投与し、針を抜く。チラリと男の様子を見てみると、ソファの背に体を預けて天井を仰いでいた。
その様は、ぐったりとしているようにもリラックスしているようにも見えた。
「…大丈夫?」
「…………」
男は私の呼び掛けに答えず、それどころか、身動きひとつとらない。
さすがに不安になり、男の肩を掴んで小さく揺らした。
「…ねぇ、ちょっと?」
「…………」
「ねぇったら!」
「…………」
「っ…アルバート・ウェスカー!」
「何だ」
「!」
突然返ってきた返事に、思わず安堵の息を漏らした。良かった、そう思っている自分を不思議に思いながら。
「もう…それで、どうかしら?」
「ああ、体中のウイルスが落ち着いている。クッ…俺が見込んだだけのことはある」
素直に私を褒めない男をもどかしく感じ、本題に入ることにした。
「ところで…」
「分かっている。…お前に必要なもの、だろう?」
「ええ、そうよ」
私は、高揚する胸を鎮めようと、手にしていた注射器をケースに戻し、それを閉じた。すると、男はジュラルミンケースを己の膝の上に置いた。それはまさしく、男が“私に必要なもの”と称したものだった。
待っていろ、と言う男に素直に従い、大人しくロックが外されるのを待った。数分後、ロックの外されたそれが私に手渡された。