novel2
□初めてのあの日から
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「薬を…?」
男の要求は、ある薬を作って欲しいというものだった。
「一体、何の薬を作ったらいいの?」
そう問うと、男はおもむろに数枚の書類のようなものを私に手渡した。その書類を恐る恐る受け取り、目を通してみると、どうやら何かのウイルスの詳細が書かれているようだった。
「それは、ウイルスだ」
「…そのようね」
「そのウイルスは、俺の体内にもあるものだ」
「なんですって…?」
男の言葉が正しければ、今、私の目の前に居る男はゾンビになっているかもしくは、死んでいる筈だ。それなのに、何故この男は此処に平然と存在しているのだろうか。
「…適合、したのね?」
「ククッ…ああ」
「でも、どうして薬を?」
男は不躾にベッドに腰を降ろしたが、私はそれを咎めようとはしなかった。
私は、この男に少なからず興味を持っていたのかもしれない。普通なら、部屋に居る時点で排除するべきだろう。だが、私は男を殺すどころか言葉を交わしているのだ。
(自分でも、信じられないわ…)
私は、内心で自嘲気味に笑った。
そして、男が口を開いた。
「ウイルスは、一応は俺のDNAに適合した…だが、これが少しばかり不安定でな。…そこでだ、お前にウイルスを安定させる薬を作って欲しい」
「でも、薬を作ろうにもその、ウイルスが無いと…」
「俺の、体にある」
「!…そう、だったわね。じゃあ、採血しましょ」
ベッドから降り、採血をする為の準備を始めた。
「クククッ…」
「?」
準備をしていると、不意に男がくつくつと笑い出した。不審に思いつつも、器具を持ってベッドに歩み寄った。
「なあに?」
「ククッ…いや?少し前までの警戒はどうしたんだ?」
「警戒?ふふ…そうだったかしら?そんなことより、貴方に興味が湧いたの」
それだけよ、と言って男の腕を取り手際よく採血をする。採血を終え、ふと男をじっくりと観察してみた。筋肉の付いた太い腕に厚い胸板、その凡人とは思えない肉体に見惚れてしまった。
「随分…鍛えてるのね」
「クッ…仕事柄、鍛えねばならんのでな」
「仕事柄?でも…研究員、でしょう?」
「今は、な」
余り詮索を好まないのか、男はそれきり口を閉ざした。
私も自らの軽率な問い掛けに、羞恥が込み上げた。馬鹿みたい、と自らを内心で罵った。
「…じゃあ、私は研究室に行くわ。貴方は…」
「勝手に出ていく」
「そう…薬は?」
「後日取りに来る」
「分かったわ」
男を部屋に残したまま、私は研究室へと向かった―――。
続きます(・∀・)ノ