novel2

□初めてのあの日から
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男は意味深な笑みを残し、私の前から去っていった。もう、会う事も無いだろうと思いながら部屋に入り、ソファに腰を下ろした。
あの男、アルバート・ウェスカーは私を探していたと言っていた。私のような者を。

「……訳が分からないわ…」

私は盛大な溜め息を吐き、考えるのを止め、そのままソファに身を委ねた。































朝目覚めると、そこは真っ白なシーツに包まれたベッドの上だった。昨日、私はソファで眠ってしまった筈だ。いつの間に移動したのだろうか。
むくりと体を起こし、はらはらと顔に掛かる長い髪を掻き上げた。

「―――漸く、お目覚めか」

低い声が、私のすぐ近くで聞こえた。
私は素早く、声が聞こえた方へ顔を向けた。

「な……!」

ベッドの向こうに立つ男。それは正しく、昨日の男だ。
私は、膝を立てて後退った。そして、壁にぴったりと背中を付けると男を睨んだ。
男は緩く口角を上げ、じろじろと私を眺めた。

「……何なのよ、貴方。勝手に私の部屋に入り込んで…」
「クククッ…」

男は私の言葉に返答などせず、僅かに笑い声を漏らした。不意に、男の手が己のサングラスに伸ばされ、紅い双眸が露わになった。
紅い瞳を見ていると、ぞくりと背中を何かが走った。
けれど、温度を持たないそれに何か、不思議なまでの魅力を感じ、私は目を逸らせずにいた。

「…貴方の目的は何?」
「ほう…物分かりが良くて助かる」
「…………」
「お前は今、人の下にいる」
「……!」

ぴくり、と私は肩を揺らした。

「だが、お前はそれが気に食わない。…そうだろう?」
「何が、言いたいの」
「クククッ…そこでだ」

お前に良いものをやる、と言って男は手に持っていたジュラルミンケースをベッドの上に置いた。

「…それは?」
「今のお前に必要なものだ」
「私に、必要なもの…?」

私はチラリとジュラルミンケースを見やった。中には何が入っているのだろう。
ふとケースの持ち手の所を見ると、ロックを掛ける為の装置が付けられているのが分かった。

「お前に必要なもの、と言ってもこれにはまだロックが掛かっている」
「…そのようね」
「しかも、このロックは俺以外には開けられない」

そこでだ、と男は紅い目を細めた。

「俺に協力してもらおう」
「協力……?」
「そうだ」





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