novel2

□最愛なる魔王さま
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そこは寝室のようだった。大きな天蓋付きのベッドがどっしりと部屋の中央に置かれていた。
それに近寄ると、ベッドの方から来い、と声が聞こえた。天蓋の中に体を滑らせれば、魔王の姿があった。
魔王は私の腕を掴むとどさりとベッドに押し倒した。
私は、抱かれるのか、と他人事のように魔王の仮面を見つめていた。

「恐れないのか」
「…何を、恐れる必要が有るの?」
「涙を流さないのか」
「……涙なんて、枯れはてたわ」

私は、魔王の問いに飄々とした態度で答えた。

「名は何と言う」
「……エクセラ、よ」
「!……そうか」

私の名を聞いた魔王は、僅かに口元に笑みを浮かべているように見えた。

「…おい、他の女は帰してやれ」
「よろしいのですか?」
「早くしろ」

不意に魔王は顔を扉の方へ向け、そう言った。ガシャガシャと鎧の音が遠ざかると、再び私を見た。
魔王の手がするりと私の頬を優しく撫でた。ゆっくりと仮面をした顔が近付いてくる。私は拒もうとはせず、目を閉じて口付けを受けた。
唇が離れ、私の頬を撫でていた手が魔王の仮面に掛けられた。仮面が外され、魔王の顔が露わになった。
その顔に、私は目を見開いた。
魔王のそれが、私の失った恋人と瓜ふたつだったから。意図せず涙が零れた。

「……アルバート」

ぽつりと亡き恋人の名を口にした。

「俺が分かるか」
「え…?」

どういう事なのだろうか。その顔は知っている。けれど、魔王などではない。れっきとした人間だ。

「エクセラ」

魔王の声が私の名を呼んだ。すると、全身の産毛が粟立った。



まさか、そんなはず、ない。



「エクセラ」

あの人ではないと思いつつも、頭の何処かでこの男があの人なのだと確信している。
私は震える手を伸ばし、そっと魔王の頬に触れた。
涙が、とめどなく流れた。

「……アルバート」
「エクセラ」
「…アルバート…生きてまた、貴方に会えるなんて…」

私達は互いの体を強く抱き締め、2度とお互いを失わぬよう誓い合った―――。



















城での生活に慣れた頃、私はふとアルバートに問い掛けた。

「所で、あの女達に何をしたの?」
「……何だって良いだろう」
「良くないわ」
「…む……」
「……まさか、抱いたの?」
「そんな事はしていない」
「じゃあ、何をしたの?」
「…………」
「アルバート」
「愛しているぞ、エクセラ」
「何を………ん……(また誤魔化された…)」

結局、アルバートがあの女達の記憶を探っていただけだと知ったのは、それから数日後の事だった。





-end-





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