novel2

□最愛なる魔王さま
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私が住むこの国では、ある行事があった。10年に1度、若い女数人を魔王の生け贄として捧げるのだ。そして、20代の若い女が5人選ばれた。
その1人に、私は選ばれてしまった。私以外の女は絶望の淵に立たされたように、ただ泣き崩れた。
けれど、私は絶望などしていない。ただ、どうでもよかった。愛する人を失った私には、生きる気力など無いのだから。



やがて、生け贄に捧げられる日がやってきた。私達は薬によって眠らされ、何処かへ運ばれた。
私が目を覚ますとそこは、大きなベッドの上だった。気付けば、他の女達もベッドの上に横たわっていた。
どうやら、私が最初に目覚めたらしい。

(此処は魔王の城…らしいわね)

私は冷静に判断し、ベッドを降りた。
キョロキョロと広い部屋内を見回した。広い室内に異様な程に高い天井、窓も一切無かった。
不意に部屋の扉が開かれた。見れば鎧を着た数人の者達が部屋に入って来た。その者達は、ベッドに横たわる4人の女を目覚めさせた。

「着いて来い」

鎧を着た1人がそう言った。私達はその言葉に従い、後を着いて行く。
暫く歩き、重厚な扉の前で止まった。重々しい音を響かせながら扉が開かれ、中へ入った。

「…来たか」

その声は低く、何処か懐かしく思った。

(この声……何処かで…)

記憶を巡ってみたが、思い出せない。
ふと視線を足元から前に向けた。そこには長身の男が真っ赤な絨毯の上に立っていた。男は金色の髪を携え、服は全て黒で統一されており、長いマントも黒だ。
そして、顔には仮面を着けており、口元しか見ることが出来ない。

「生け贄の女達です」

鎧の1人がそう言った。どうやら、この男こそが魔王のようだ。

「1人ずつ部屋に連れて来い」
「畏まりました」

魔王はマントを翻し、隣の部屋に姿を消した。1人目の女がその部屋へ連れて行かれる。
暫くして、女が戻って来た。その目には涙を浮かばせ、己の身体を抱いてカタカタと震えていた。それと入れ違いで次の女が部屋に入り、その部屋から戻っては次の女が部屋に入る。
そして、私の番になった。私は平然とした様子で隣の部屋へと続く扉を開け、足を踏み入れた。





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